コント「ブツブツ」

【登場人物】
南花おちば:劇団「かもかも」所属。真面目だが、極度の緊張と勘違いで暴走しがちな「中の人」。
恋流波陽(ハル):劇団「かもかも」主演俳優。飄々としているが、こだわりが強く面倒なタイプ。
赤井葵:劇団「かもかも」の実力派女優。関西弁でストレートに突っ込む、劇団のまとめ役。

【場面設定】
ここあん村の公民館、薄暗いステージ。劇団「かもかも」の稽古中。

:はい、そこまで! おちば、台本通りにやってって言うてるやん。なんでそこで、妙な姿勢で急に踏ん張るん? おかしいで!

おちば:(汗を拭いながら、必死な顔で)葵、ごめん。あたしも、さっきから頑張ってはいるんだけど、どうしても出なくて。

ハル:出ない? できないだね。おちばちゃん、それは努力でどうにかなるものじゃないかな。もっと「音」としての実在感、空気を震わせるような、ね。

おちば:(顔を真っ赤にして絶叫)無理です! そんなの演ハラ、演出ハラスメントです! あたし、女優魂あるつもりですけど、人前でおならなんてできません!

:え? なに、おならって?

おちば:ハルさんが「音としての実在感」とか「空気を震わせる」って言ってるのはそういうことですよね! そんな、台本の指定通りに、タイミングよく、ほ、ほ、放屁するなんて!

ハル:ほ、ほ、放屁?

おちば:だって、「ブッブッ」って書いてあるじゃないですか。「ブッブッ」って。

ハル:(天を仰いで)おちばちゃん、「ブッブッ」じゃないよ、「ブツブツ」だよ。不満げに言う、「ブツブツ」ね。

おちば:(呆然として)え、不満げ? あ、不満そうに独り言で言う、あの?

:そう、その、あの、「ブツブツ」よ。おならの音の指定なんて、どこにも書いてあらへん。

おちば:で、ですよね。ああ、良かった。もう、あたし、昨日からおいもばっかり食べて、準備だけはしてたんですよ。今日も、持ってきてたし。

ハル:それは無駄になっちゃったね。まあ、気を取り直して。「ブツブツ」、意識してやってみようか。

おちば:(背筋をピンと伸ばし、舞台中央でハッキリと発声する)「ブツブツ! 卵の値段も高い。電気代も高い。喉が詰まる!」

:(頭を抱える)おちば。

おちば:はい!

:あんた、なんで「ブツブツ」まで声に出して読んだん?

ハル:それに「喉が詰まる」って、役の状態をセリフで説明しちゃダメだよ。そこは声のトーンや演技で観客に感じさせるものだから。

おちば:あ、そっか。でも、難しいです。「喉が詰まる」? そうやったら感じ出るんですか?

:せやな。昨日から準備しとったそのおいもさん、今ここで食べたらええんちゃう? そしたらリアルに喉詰まるやろ。

おちば:なるほど! さすが葵メソッド、アイデアいただきます!

ハル:プウ〜は抜きでね。

おちば:あ、今のは。

:そやな。ハル、今のは言ったらあかんやつや。

(幕)

作・千早亭小倉

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