【登場人物】
カリソメ君:ここあん高校に通う地味で普通の男子生徒。フォークソングの弾き語りフェスがあると聞き、アコギを抱えてやって来た。村の催しには疎い。
恋流波陽(ハル):あの男風の村人。ブラウンの革ジャンを着用。
岸辺義道:あの男風の村人。サングラスを着用。
聖林太郎:あの男風の村人。ロカビリーヘアで片手にリンゴ。
【場面設定】
秋の日の夕暮れ時。椎名町三丁目の薄暗い路地裏。古い映画館「まひる座」の裏手に「ディランまつり」と手書きされた古びた看板が立てかけられている。そう、今日は、年に一度の「ディランまつり」の日。

カリソメ君:ここがディランまつりの会場で合っているのかなあ。「まひる座」って名前なのに、このあたりは昼でも薄暗いんだよな。
(スクラッチを効かせた、どこかで聞いたようなギターの音色が一瞬聞こえ、消える)
カリソメ君:(音に驚いて、ビクッとなる)結構、集まってるのかな? 僕も、家でめっちゃ練習してきたからな。ディランのジャカジャカ弾く感じと、ちょっとクセのあるスリーフィンガー。みんなで『風に吹かれて』大合唱するぞ!
(壁に背をもたれさせ、腕を組んでいたハルがゆっくりと顔を上げる。視線は斜め下を向いたままだ)
ハル:ガイズ、大声を出さないでくれ。せっかくの静けさが、俺の耳元から逃げていくだろ。
カリソメ君:あ、すみません。あの、「ディランまつり」の会場はここで合っていますか。
ハル:ふっ、「まつり」だなんて、ずいぶんとおめでたい奴が現れたもんだ。そんな暇があったら、お前のポルシェのエンジン音を聴かせてくれないか。ビバリーヒルズの風を切り裂くようなやつを頼むぜ。
カリソメ君:え、ポルシェ? 僕、免許持ってないし。ここ、アコギの弾き語り会場じゃないんですか?
(そこへ、サングラスを掛けた岸辺義道が歩いてくる。ポケットに両手を突っ込み、ハルから背を向けるようにして立つ)
義道:ずいぶんと賑やかじゃないか。俺の孤独を邪魔しないでくれ。
ハル:おいおい、俺の前に割り込むなよ。俺は今、西海岸の風の音を聴いていたんだ。
カリソメ君:あ、やっぱり、風に吹かれるんですか?
義道:風だと。お前、新入りか? 風は誰の味方もしない。俺はそれを知っている。
カリソメ君:あれ、よく見たら、お二人とも自主映画サークルの方ですよね、ここあん大学の。いつも、そんな髪型してましたっけ?
(ハルと義道が、ロカビリーヘアをなでつける)
ハル:自主映画サークル? 笑わせるなよ、ここはビバリーだぜ? 誰かとつるむのは柄じゃないんだ。
カリソメ君:それに、なんで背中合わせに立っているんですか。
ハル:俺たちはたまたま、ウェストビバリー高の同じ廊下ですれ違っただけの他人だ。名前なんて、砂漠の砂粒みたいなものさ。
カリソメ君:え、高校生? 設定にしても、ちょっと厳しいような。
義道:設定? それじゃ聞くが、お前は高校生だって言うのか?
カリソメ君:現役です。
義道:(無視)俺の心に土足で踏み込ませはしないぜ。
カリソメ君:でも、昨日も、ここあん大学の学生会館から仲良くアンプと撮影機材を運び出してましたよね、おふたりで。なんで急に他人のふりをするんですか。
(そこへ聖林太郎が、リンゴを片手にゆっくり歩いてくる)
聖林太郎:ワーオ、ハルに義道、今日は夕暮れの光がやけに眩しいでやんす。
ハル:おい、設定守れよ。
カリソメ君:あ、やっぱり設定なんだ。
林太郎:ふっ、夕暮れの光がやけに眩しいぜ。
ハル:お前も来たのか。
林太郎:おお、ハルに義道か。夕暮れの光がやけに眩しいぜ。
カリソメ君:名前で呼んでるし。やっぱりサークルの仲間じゃないですか。
林太郎:名前か。ふっ、そんなものはただのインデックスさ。(ハルに向かい)そうだ、お前に先週借りたドライバーを返しに来た。
カリソメ君:めちゃくちゃ日常的な話をし始めた。
林太郎:(リンゴをかじりながら、ハルにドライバーを差し出す。ただし視線は明後日の方向)受け取れよ。悪いな、誰にも貸しを作らない主義なんだ。
ハル:(やはり視線を合わせず、背中で手探りしながら受け取る)借りを返せなんて言った覚えはないぜ。だが、受け取っておこう。野暮なことは言いっこなしだ。
カリソメ君:なんで頑なにお互いの顔を見ないんですか。というか、あ、ウエストビバ……。もしかしてこれ、風にふかれる吟遊詩人じゃなくて、ビバ。
義道:(カリソメ君に皆まで言わせず)そういや、林太郎。サークルの連絡網、お前のところでまた止まってるぞ。週末みんなでやる鍋の買い出し担当、誰にするか決まってないんだ……ぜ。
林太郎:連絡網だと。ふん、誰かの意思に縛られるなんて、まっぴらごめんだぜ。俺は俺のニュースしか信じない。
義道:困るんだよ。16ミリ映写機操作技術の講習会のほうも、参加者が決まらないし。いや、決まらないんだぜ。サークルに貢献しない奴は、三丁目の風に嫌われるぜ。
カリソメ君:「風」とか格好いい言葉を使ってますけど、言っている内容がサークルの実務と、スーパー人生の特売情報ですよね!
ハル:坊やのいう通りだ。遊びの時間は終わりにしよう。資格とか、役割とかに縛られるのは、柄じゃないしな。
カリソメ君:もういいです。僕はアコギを弾きに来ただけなんです。この路地の出口はどこですか。
(ハル、義道、林太郎の三人が、同時にポケットからキーケースを取り出し、格好良く決めポーズをとる)
ハル:出口を探すんじゃない、坊や。自分の道は自分で作るもんだ。たとえば、ポルシェのキーを回すようにな。
義道:迷うことを恐れてるのかい? それはお前が生きてるってことさ。さあ、あの夕日に向かってキーを回そうぜ。
林太郎:俺はもう行く。(人差し指につばをつけ、空にかざす)いい波に逢える予感がする。お前らはいつまでもそこでおままごとをしていればいいさ。
ハル:待て、俺が先に行く。
義道:いや、俺が先だ。俺は誰の後ろも歩いたことがないんだ。
(3人が同時に同じ狭い路地へ歩き出し、肩がぶつかって詰まる)
ハル:おい、退け。俺のポルシェが。
義道:あれは俺のポルシェだ。それより、お前のチャリ、駅前で見たぞ。
林太郎:そうだ、坊や。俺たちにいいララバイを聞かせてくれないか。
ハル:ああ、聞きたいもんだ。
義道:話はやってみせてからだろう。それが男っていうもんだ。
カリソメ君:やってみせてからって……話が追い越してない? もう、わかりましたよ、あれでしょ? あれを、やればいいんでしょう。
(カリソメ君、こっちのディランたちの有名なオープニング曲をジャガジャガと弾き始める。3人とも陶酔した顔で、身をくねらせる)
(幕)
作・千早亭小倉





