【登場人物】
鈴本 美沙(ミサンガ):FMここあんのDJ。相手の悪意や嫌味をすべて100%の善意で弾き返す「圧倒的ポジティブ変換」の持ち主。
篠田 律:ここあん大学院生。他者の言葉に潜む矛盾を見つけては嬉々として論破する愉快犯的クレーマー。実家暮らし。
宏原 こはな(おはなはん):FMここあんのミキサー。ガラス越しのストッパー。常に胃を痛めている。
【場面設定】
FMここあんのプレハブ仮設スタジオ。生放送中。

ミサンガ:ということで、今週のプレゼント応募キーワードは「うさぎさん」です。先週のキーワードと繋げて、ブラウザに直接打ち込んで特設サイトにアクセスしてくださいね。私からの愛のプレゼントでーす。
(スタジオの電話が鳴る。おはなはんがガラスの向こうで怪訝な顔をするが、ミサンガは迷わずボタンを押す)
ミサンガ:おっ、さっそくリスナーさんからお電話です。もしもーし。
篠田律:(電話の音声)言われた通りに打ち込みましたが、特設サイトにはアクセスできませんでした。
ミサンガ:あ、その声は「私のジグソーは1000兆ピース」ちゃんですね。いつも聞いてくれてありがとうございます。
律:愛は無形概念であり贈与の客体にはなり得ないという点は百歩譲るとして。先週のキーワードは「アルマジロ」でした。指示通りにブラウザのアドレスバーに「アルマジロうさぎさん」と直接打ち込んだ結果、URLとして認識されず、代わりに検索エンジンのAIが『アルマジロが気持ち悪いと感じるかどうかは人それぞれです』という的外れな回答を生成しました。あなたの番組は設定が完全に破綻しています。
ミサンガ:ええっ、本当ですか。AIってそんなことまで教えてくれるんですね! でもアルマジロとうさぎさんって、どっちも丸っこくて可愛くないですか。
律:AIの倫理的配慮や動物の可愛さは、プレゼント応募において有効なプロトコルではありません。第一幕で提示した伏線が第二幕で機能していないのと同じです。放送という公共の電波を使うなら、論理の穴を塞いでください。
ミサンガ:「1000兆ピース」ちゃんって、本当に私の番組を隅から隅まで聞いてくれてるんですね。実際に検索までしてくれるなんて、めっちゃ愛を感じます。
律:愛ではありません。私はただ、パズルのピースが埋まらない生理的な気持ち悪さを解消し、あなたの矛盾を解体したいだけです。
ミサンガ:うわあ、嬉しい。そんなに真剣に私のアラ探しをしてくれるの、「ピース」ちゃんだけですよ。そうだ、来週スタジオに遊びに来てくださいよ。一緒に愛のプレゼントのキーワードを考えましょう。
律:私はこの部屋で、遺伝子の系統樹と向き合っている方が有意義です。
(電話の奥から、掃除機のモーター音が大きく響き始める)
律:ちょっと、お母さん。今ラジオの生放送に電話して論破中だから、足元で掃除機かけないで。柔軟剤の匂いも強いから換気してって言ったでしょう。
ミサンガ:あはは、「ピー」ちゃんのお母さん、こんにちはー。
律:挨拶しないでください。私の論理的優位性が崩れます。
ミサンガ:ということで、来週のゲストは、私の熱狂的な大ファンでクレーマーの篠田律ちゃんです。お楽しみにー。
律:本名言っちゃってる。大ファンじゃないし、勝手にゲストのフラグを立てないでください。矛盾の指摘に対する回答がまだ。
ミサンガ:それじゃあ、リクエスト曲に行きまーす。♪ジグソーパズルができるまで、行ってみよう。
(通話が一方的に切られる)
おはなはん:(インカムの声)ミサンガ、一般のリスナーを勝手にゲストと呼ばないで。私の胃薬が尽きる。
ミサンガ:大丈夫ですよ、おはなはん。律ちゃん、なんだかんだ言ってちゃんと来てくれますから。
(ミサンガが満面の笑みでカフを下げる)
律:♪ジグソーパズルができるまで? 素敵な曲。
(幕)
作・千早亭小倉





