【登場人物】
はるひこ:10歳の長男。学校から帰ってきたばかり。
なつひこ:5歳の次男。いつも「らっら」と言っている。
みちこ:はるひこの母。専業主婦。いつも疲れている。
【場面設定】
昭和47年。土曜日の午後。世田谷区成城のはるひこ家の居間。テレビからは野球中継の実況と歓声が響いている。はるひこはランドセルを背負ったまま、テレビの画面をじっと見つめている。なつひこは床に座り、十数本の白いレンゲをきっちり並べている。
(テレビの実況:「いやあ、今日は本当に長い試合になってますね」)
はるひこ:(興奮して)すごい。まだやってる。学校で先生が「特別に見せてやろう」ってつけた試合が、まだ終わってないよ。それは長いよ。学校から家までつながってるんだから。
なつひこ:らっら、らっら。
はるひこ:(ランドセルが揺れるのも気にせず、その場で足踏みする)長い試合があるなら、新宿から生田までずっとつながってる長い電車とか、学校の教室までつながってる長い家だってあるかもしれない。
(台所から、みちこがゆっくりと居間に入ってくる)
みちこ:なにさわいでるの。
はるひこ:あ、長いおかあさん。
みちこ:(ソファにどさっと座り込んで)長い? なにが長いのよ。あんた、早くランドセル下ろして、手ぇ洗ってきなさい。あとうがいもね。
はるひこ:(みちこの言葉を無視して、なつひこの方を見る)長いなっちゃん。
なつひこ:だっ!
(なつひこが突然立ち上がり、横向きにぴょんぴょんと3回飛び跳ねる。そして元の場所に戻る)
はるひこ:(なんだかおかしくなって、なつひこの脇腹を指でつつく)長いなっちゃん、長いなっちゃん!
なつひこ:うひゃあ。(体をくねらせる)
みちこ:(目を閉じて、ため息をつく)はる、なつをあんまり興奮させないの。テレビ、小さくして。
はるひこ:小さいテレビ、小さいテレビ。(テレビの音量はそのままにして、なつひこをつつき続ける)長いなっちゃん、長いなっちゃん!
なつひこ:うひゃ、うひゃあ!
(なつひこは、はるひこの手を払い、また床のレンゲをじっと見つめ始める)
みちこ:はるひこ。
はるひこ:(だまって、テレビを消す)
(幕)
作・千早亭小倉



