【登場人物】
高橋あゆみ(あゆ):FMここあんDJ。昭和歌謡の話題になると情念を爆発させる。
鈴本美沙(ミサンガ):FMここあんDJ。空気を読まない天然のクラッシャー。
宏原こはな(おはなはん):FMここあんミキサー。ガラス越しのストッパー。
海ママ:居酒屋「海」の店主。昭和歌謡とパチンコを愛する妖艶な観察者。
【場面設定1】
図書館の庭にあるFMここあんのプレハブ仮設スタジオ。生放送中。

ミサンガ:さあ、続いてはラジオネーム「昼間はすっぴん」さんからのリクエストです。夏の定番ですね。中原めいこで『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。』!
あゆ:ええ。1984年の名曲よ。夏の熱気と、男と女の絡み合う情念が弾ける最高のポップスね。
ミサンガ:この曲名、前から思ってたんですけど。キウイ、パパイア、マンゴーって、全部「ひと玉、ふた玉」って数えますよね。バナナやイチゴが入ってないの、絶対に数え方で揃えたんだと思います。
あゆ:玉?
ミサンガ:はい。丸っこくて手に収まるから。キウイひと玉、マンゴーふた玉。
あゆ:ちょっと待って。そんな青果店の仕入れみたいな理由で、このタイトルが決められたとでも言うの。
ミサンガ:え、違いますかね。「君たち、ひと玉、ふた玉、み玉だね」って。
あゆ:ふざけないで。これは、燃え上がる一過性の恋の情念を、トロピカルフルーツの鮮やかな色彩に仮託した文学なのよ。それを「玉」だなんて、色気も何もない単位で数えるなんて冒涜だわ。
ミサンガ:逆に、色気が余ってそうだけど。
おはなはん:(ガラスの向こうからインターコムで)二人とも、マイクに乗ってるよ。早く曲を紹介して。
ミサンガ:でもあゆちゃん、男の人を果物に見立てているんですよね。だったら「いい玉が揃ってるね」ってことですよね。パチンコみたいでワクワクします。
あゆ:ミサンガも、引っ張るね。男をパチンコ玉と一緒にしないで。ここにあるのは、果肉が熟れきって落ちる寸前の、甘くてドロドロした毒なのよ。「玉」なんて硬い言葉で、昭和の女の業を量れるわけないじゃない。
ミサンガ:あーあ、イントロ終わって歌が始まっちゃいましたよ。でも、パパイアって半分に切ると、中に黒くて丸い種がいっぱい詰まっていて、ちょっと怖いですよね。
あゆ:それよ。
ミサンガ:え。
あゆ:その無数の黒い種。甘い果肉の奥に隠された、女の黒い思惑。それこそが情念の正体なのよ。ミサンガ、あなた意外と本質を分かっているじゃない。
ミサンガ:えへへ。種が多いと食べるの面倒ですよね。
おはなはん:(インターコムのスイッチを切り、手元のフェーダーを上げる)もう、曲だけ流しておくわ。
【場面設定2】
椎名町3丁目。開店前の居酒屋「海」。 薄暗い店内に、古いラジオから『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。』が流れている。
(海ママがカウンターに座り、まな板の上でよく熟れたパパイアを半分に切り分ける。断面には、黒い種がぎっしりと詰まっている)
海ママ:ふふっ。いい玉、ね。
(パパイアをスプーンですくい、艶やかな唇に運ぶ。口の中でゆっくりと味わい、小さく息を吐く)
海ママ:お・か・え・り(意味不明)。笑っちゃうね。
(幕)







