【登場人物】
矢尾 リリカ:ここあん高校生。シニカルで冷めた性格。「冷たい最強」。
矢尾 太陽:リリカの弟。怖いもの知らずの小学生。姉の理屈が一切通用しない天敵。
【場面設定】
平日の夕方。矢尾家のリビング。リリカがソファで文庫本を読んでいる。太陽は床でブロックのおもちゃを動かしている。

太陽:ホームランダーだ。ブッチャーだ。ホームランダーだ。ブッチャーだ。
リリカ:(本から顔を上げずに)あんた、さっきから何ぶつぶつ言ってるのよ。
太陽:モノマネだよ。海外のすごいドラマのやつ。
リリカ:それ、ものまねなの? 名前を自分で言っちゃってるじゃない。モノマネというのはね、対象の特徴的な動作や言葉を抜き出して、相手に誰かを推測させる遊びよ。自分から名乗ってしまったら、その前提が成立しないわ。
太陽:ホームランダーだ。目からビーム、ビー。俺はブッチャーだ。バールのようなものでガシャン。
リリカ:結局、ストーリーが全然わからないじゃない。名前と効果音の羅列だけで、背景にある文脈も人物の葛藤も何一つ伝わってこないわ。
太陽:お姉ちゃんは分かってないな。ストーリーなんてどうでもいいんだよ。大事なのは、ただ強くてヤバい感じなんだから。名前を言えば一番早く伝わるでしょ。
リリカ:名前を言って伝わるなら、そもそもモノマネという手段を選ぶ必要がないのよ。ただの状況報告だわ。
太陽:じゃあ、お姉ちゃんにも分かりやすいやつをやるよ。私は矢尾リリカだ。冷たい最強だ。カチンコチン。
リリカ:自分の姉を氷の塊みたいに表現するのはやめなさい。
太陽:私は冷凍焼き鳥だ。チンすると、柔らかそうだもん。
リリカ:この前も言ったけれど、私は冷凍でも焼き鳥でもないわ。「チンすると」って何よ。
太陽:でも、ストーリーなんてなくても、お姉ちゃんがどんな人かすぐに分かったでしょ。やっぱり名前を言うのが一番効果的なんだよ。
リリカ:あんたのその無敵な論理展開、ある意味で本当に恐ろしいわ。私には到底理解できない。
太陽:お姉ちゃんもモノマネする? ママのやつ。「私はステキさんだ、ステキ、ステキー」って。
リリカ:絶対にお断りよ。頭が痛くなってきたから自分の部屋に戻るわ。
太陽:次はもっと強いやつのモノマネを考えるから、あとで見てね。
リリカ:二度と見ないわ。
(幕)
作・千早亭小倉
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