箱庭小説

箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「おはぎはんの正義」

梅雨の晴れ間というのは、夏の始まりを告げる気まぐれな祝祭だ。アスファルトから陽炎が立ちのぼり、昨日までの雨の名残をすっかり乾かしてしまう。風は湿り気をたっぷりと含んでねばつき、網戸を通り抜けては、部屋の中の空気とゆるやかに混ざり合った。台所...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「グッド、伊武人具」

陽光がじっとりとした熱を帯び、アスファルトを燻す昼下がり。ここあん村克枯地区の商店街は、古いアーケードの天井で切り取られた空の青さとは裏腹に、どこか気の抜けた空気に満たされていた。カツカレー祭りの賑わいも過ぎ、日常という名の微温湯が、シャッ...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「阿斗理恵、満艦飾」

夏の光が、音巴里荘の森閑とした庭に、数えきれない木漏れ日を降らせていた。空間そのものから沸き立ってくる蝉時雨が、熱を帯びて陽炎のように揺らめく空気を震わせている。その中心に、阿斗理恵はいた。年季の入った巨大な木製のたらいを慣れた様子で軽々と...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

絶対零度の知性|新浪いちごの日常シリーズ

かつてAIとの知性比べにおいて敗北を認め、研究の第一線を退いた元・天才科学者の少女「新浪いちご」と、その弟「ナツ」の生活を描いた掌編シリーズです。森の中のモジュールで暮らすいちごは、自身の感情を排し、あらゆる事象を「データ」「定数」「変数」...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

掌編小説「京子でちゅ」

[箱庭小説]舞台はここあん村。元オペラ歌手のボラン京子は、バッハが流れる完璧な秩序のリビングで優雅な休日を過ごしていた。しかし、超大型犬のフィデリオが甘えた声を漏らした瞬間、彼女の気品ある鎧は崩壊。「どうちたですか〜」と赤ちゃん言葉で抱きしめ、至福の無防備な眠りに落ちていく。作・千早亭小倉