「箱庭コント」ってどんなもの?(定義)
千早亭小倉です。私が運営する「ここあん村」のサイトでは、登場人物の対話劇の多くに、「箱庭コント」という名前を冠しています。ここでいう「箱庭コント」とは、あらかじめ設定の決まった一つの架空の村「ここあん村」を舞台に、150人ほどの個性豊かな住民たちが織りなす人間関係や会話のズレを、客観的に覗き込んで楽しむ連作形式のコントを意味しています。
なぜ「箱庭コント」って呼ぶのか?(概観)
「箱庭コント」という言葉ですが、「箱庭的なコント」「箱庭で展開するコント」だから「箱庭コント」という、なんとも単純な理由、しっくりくるので、そう呼んでいます。「箱庭」も「コント」も一般的な言葉ですので、私の完全な造語というわけでもないでしょう。ただ、お笑い界で広く使われている言葉でもなさそうです。
そもそも、テレビや舞台で見かける一般的なコントの多くも、ある種の「箱庭」だと言えます。幕が上がった瞬間に「取調室」や「ラーメン屋」といった限定された場所が提示され、その枠組みの中で話が進むからです。
しかし、私が呼んでいる「箱庭コント」は、それらの一般的なコントと少し質が違います。一般的なコントがその数分間の笑いのために作られた使い切りの空間であるのに対し、箱庭コントは「ずっとそこにあって動き続けている一つの村」をベースにしています。150人の住民たちが暮らすミニチュアの世界を、外側からそっと覗き見ているような感覚が大きな特徴です。
箱庭コントがもつ3つの特徴(詳説)
もう少し、説明させてください。この少し毛色の違うコントには、次の3つの特徴があると考えています。
1. キャラクターや場所の設定が固定されている
一般的なコントに出てくる取調室や飲み屋、あるいは登場人物の名前などは、基本的にはその場限りの記号のようなものです。「タナカ」「ヤマモト」と呼び合うことはあっても、「山本」か「山元」なのかまで問われることはほとんどないでしょう。背景を細かく説明しないからこそ、観客はすぐに本題の笑いに集中できます(なかには、私も大好きな千鳥さんのネタに出てくる「ヨダレダコ」や「ズワイガニエビミ」「ポカリ川」のような例もありますが……あ、千鳥さんのネタは漫才でした。失礼しました)。
一方で、箱庭コントでは、編集プロダクションはここあん鉄道3丁目駅近くの「ぽんちょ」、ブックカフェはここあん湖畔の「シズカ」といった具合に、舞台設定から、そこにいる「編集者」は鶴亀昌子と臼葉、「校正者」は辻さゆり、カフェの経営者は氷上静と中野小春といった具合に、登場人物まで、室内の雰囲気から、人物の性格、仕事ぶり、人間関係にいたるまで、細かに決められています。私の書いた箱庭コントを初めて読む方には、とても不親切な話ですが、このように設定が決まっているのです。
2. コント同士が地続きで、関係性が積み重なっていく
このように、私が書き、このサイトで公開しているコントや掌編は、その多くが同じ「ここあん村」の中で繋がっています。あるお話で起きた出来事や変化が、次のお話にもそのまま引き継がれることも少なくありません。
何度も同じ場所や人が登場することで、読み手の中に「あそこの編集プロダクションなら、きっとこんなことが起きるだろう」という共通の理解が生まれます。
緻密な「伏線」というよりも、あるコントで生まれた人間関係が別のコントにも地続きで反映されているイメージです。例えば、一度仲良くなった二人は、別のエピソードでも親しい関係のまま登場します。まあ、読む順番によって、その関係も逆転してしまうのでややこしいのですが(つながりはありつつ、一話完結になっているので、それぞれを楽しんでいただけるとは思います)。「変な人」がただ出てきてボケるのではなく、それぞれの職業病やこだわり、考え方がぶつかり合うことで、自然と会話のズレや笑いが生まれる仕組みです。
登場人物をかえても成り立つ箱庭コントもありますが、人物を入れ替えた場合も、話す内容や場の雰囲気、場合によってはオチも調整するので、見ようによっては、違うコントに変わるともいえます。
3. 文字で読んで面白いテキストの力
舞台の上で体を動かしたり、表情で笑わせたりすることを前提としたコント台本とは異なり、このサイトで公開している「箱庭コント」は、言葉の掛け合いや論理の展開そのものに力を入れた、「読むコント」「読むシットコム」です。
実際に舞台で上演されていなくても、文字として読むだけで、テンポの良い会話や村の情景がありありと頭に浮かんでくるような、読み物としての高い満足を感じていただけるよう、努めています。
「読むシットコム」って何?
みなさんのほうがお詳しいと思いますが、シットコム(situation comedy)とは、テレビドラマなどで見られる「決まった登場人物たちが、日常のさまざまな状況の中で巻き起こすコメディ」のことです。馴染みのあるキャラクターたちが、居酒屋や学校、商店街などの舞台で繰り広げる掛け合いや小さな事件を通じて、笑いやほっこりした気持ちを提供する形式です。
私の「箱庭コント」は、笑いをテキストで味わうことから、「読むシットコム」ともいえます。
画面や舞台の上の演技ではなく、文章の力で情景・人物の息遣い・間を描き出し、読者が頭の中で映像化しながら楽しむスタイルです。一話完結の短編(箱庭コント)が多いため、気軽に「一服のおやつ」のように読めますが、作品を読み進めるごとにここあん村の住人たちの関係性や背景が少しずつ深まっていく連作的な面白さもあります。
テレビのシットコムのような軽快さと、文学的な温かさや機微を併せ持ち、「箱庭」というコンパクトな世界の中で、どこか懐かしく愛おしい人間模様を丁寧に紡いでいきたいと考えています。
つまり、箱庭コント=ここあん村を舞台にした個々の短編作品群であり、読むシットコム=その全体的な創作コンセプト・読み味を表す言葉です。両者はほぼ一体の表現で、箱庭コントを通じて「読むシットコム」の世界を広げていけたら、と。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
千早亭小倉


