コント「未定義のコースター」

ブックカフェシズカの朝。

マホガニーのカウンター。静が、一分の狂いもなく磨き上げるその滑らかな銀河に、それは「こぼれて」いた。

液体ではない。漆黒の絵具を垂らしたような、しかし奥行きだけが無限に続く「空間の剥離」だ。

「……事象の地平面の漏出? いいえ、質量保存の法則に対する明白な反逆だわ。出典のない引用のような、醜悪なバグ」

静はピンセットで剥離の縁を慎重に摘まみ、除去を試みた。

しかし、鋼鉄の先端は虚空をすり抜け、チッという金属的な舌打ちとともにカウンターに虚しく弾かれる。物理的な干渉を拒絶する「未定義」の存在を前に、静の額に汗が浮かぶ。彼女が最も苦手とするのは、自身の論理で「清掃」できない不条理だ。

「静さん、そこ、まだ拭いてなかった?」

焙煎室から顔を出した中野小春は、静の戦慄をよそに、エプロンのポケットから事務用のメンディングテープを取り出すと、迷いなくその奈落の入り口を覆うようにバツ印で封じた。

剥離した空間が、テープの粘着面に強引に平坦化された。小春はそこに、淹れたての珈琲を静かに置いた。

「ふふっ、ちょうどいい目印ね。ここ、熱いから気をつけて」

世界を飲み込もうとした深淵は、小春の手によって、単なるカップの「敷物」へと堕とされた。

(幕)

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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シズカな笑い
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