コント「ちょんまげが2本生えた日」

【登場人物】
 徒然士
:51歳。文芸評論家。完璧な様式美を尊び、時代錯誤な着物姿を貫く偏執狂。プライドが高く、自分の価値を認めさせようと必死。
鴨下 留美子:60代。劇団「かもかも」の演出家。元伝説の文芸編集者。徒然士の才能を買いながらも、その扱いを熟知している。
ダダダさん:60歳。自称「不思議おじさん」。相手の言葉をそのまま肯定する「完全共感体」。意味を剥ぎ取られた真空のような存在。

【場面設定】
椎名町三丁目、アパート「常磐荘」の管理人室。デスクには、新しく配られたばかりの「ここあん村住民リスト」が置かれている。

徒然士:(震える指でリストを指し示し)か、鴨下さん。これ、何かの間違いではありませんか?

留美子:(老眼鏡をずらし、赤ペンを回しながら)あら、徒然つれづれさん。また誤字? あなたの名前、また「徒然草」になってたとか?

徒然士:まず、あなたのその呼び方です! 私は「ただぜんじ」です。何度言えばお分かりになるのですか! そして今回は表記ではありません、順序です! なぜ五十音順の名簿で、この、この「ダダダ」とかいう意味の破片のような御仁が、私より一つ上の行に鎮座しているのですか!

ダダダさん:ほんとだねー。

徒然士:(少しぎょっとして)いつの間に! 単純に五十音順で言えば、「た」だぜんじの私の方が、「だ」だださんより先に来るのが当たり前でしょう!

留美子:ああ、それ。名簿の作成者も、あなたの名前を「つれづれ」だと勘違いしたんじゃないの? それなら、「だ」よりも「つ」の方が後になるでしょう。解決。

徒然士:か、解決ですと? だとしたら、なぜ私はこの「丹波たんばりん」より前にあるのですか! もし「つれづれ」なら丹波さんより下になるはずでしょう! 五十音順の法則が完全に崩壊している!

留美子:うーん……あ、思い出した。作成者の人がね、「ダ行のほうがタ行より上だ」って言ってたわ。濁点がある分、「重い」からって。解決。

徒然士:(絶句して天を仰ぐ)重さの定義が物理的すぎる。嘆かわしい。言葉の序列とは、そのような表面的な質量ではなく、精神の深淵によって決定されるべきものです。

ダダダさん:ねえ、何かおもしろいこと言って。

徒然士:今、私がどれだけ深刻な実存的危機に瀕しているか分からんのか! これでは私の「知の要塞」が、この男の「全肯定」という泥沼に呑み込まれてしまう!

ダダダさん:ほんとだねー。

留美子:徒然ただぜんさん、いいじゃない。ダダダさんは「空っぽの神様」なのよ。神様の下に名前があるなんて、むしろ光栄なことだと思わない?

徒然士:神? これが神ですか? ただの返事の自動機械ではないですか!

ダダダさん:ほんとだねー。

徒然士:(額の汗を拭い)くっ、この、暖簾に腕押しのような感覚。ちょんまげ生えるわ。

留美子:あ、ひさびさ本人から聞いた。自分の論理が通じない時に出る、徒然ただぜんさんの負け惜しみ。

徒然士:負け惜しみではありません! これは、あまりの不条理に対する、私の魂の叫びです! 鴨下さん、今すぐこのリストを修正してください。私の名を一番上に。せめて、この「ダ」の字を私の視界から消して……!

留美子:却下。刷り直す予算なんてないわよ、きっと。それに、ダダダさんが上にいたほうが、リスト全体の「バグ」が緩和されるって評判なのよ。なんか、ゆるい並びなんだなって感じで。

徒然士:(膝から崩れ落ち、畳を叩く)私の、私の五十年かけて築き上げた文壇の矜持が……。

留美子:どうせなら、これを機に、ダダダンジって改名したら?

徒然士:せんわ!  ちょんまげ二本生えるわ!

ダダダさん:ホントだねー。

(了)

作・千早亭小倉

タイトルとURLをコピーしました