【登場人物】
高島 雅也:ここあん村立図書館館長。正論という名の鎧を纏った完璧主義者。秩序と管理を重んじる。
真木 まき:ここあん村立図書館副館長。メルヘンな言葉で話すが、蔵書構成を決定する知識の宝庫。
【場面設定】
春のここあん村立図書館。エントランス前の小さな庭。高島が草むしりを終え、膨らんだゴミ袋を手に立っている。

高島 雅也:副館長。エントランス前の植え込みで黄色いタンポポが過剰に繁殖していました。景観の秩序を維持するため、すべて駆除しておきました。
真木 まき:あら、館長。春の妖精さんたちを全部抜いてしまったんですか。
雅也:妖精ではありません。セイヨウタンポポです。生態系を脅かす外来種は徹底的に管理する必要があります。
まき:黄色いタンポポの中には日本の在来種もいるんですよ。お花の下のガクが反り返っていないのが在来種です。館長さんが今捨てたお花、ガクがぴったり上を向いていますね。
雅也:なんだと。黄色いタンポポはすべて外来種ではないのか。白いたんぽぽが在来種だと記憶していたのだが。
まき:白いたんぽぽという種類もありますけど、それは西日本に多いんです。このあたりで咲いているのは、ほとんど黄色いお花ですよ。
雅也:そうなのか。小学生のときに間違えて覚えたきり、情報をほったらかしにしていたということか。
まき:そうですね。ほったらかしにされたタンポポさんたちのように。
雅也:いや、待てよ。そもそも私に教えてくれた誰かが間違えていた可能性も高いな。
まき:(にこにこしている)
雅也:いや、しかし私は在来種を保護する意図は持っていたんだ。あちらの隅に咲いている白いタンポポは、貴重な在来種だと判断して抜かずに残してある。
まき:館長さん。あちらで風に揺れている白いフワフワは、黄色いお花が綿毛になったお姿です。白いお花ではありません。
雅也:(目を見開く)綿毛。あの黄色い花が、あの白い球体に変貌するというのか。
まき:ええ。種になって空の旅に出るんです。ちなみに、あの綿毛の根元を見てください。ガクがしっかり反り返っていますね。つまり外来種のセイヨウタンポポです。もう少し風が吹けば、お庭じゅうに外来種の種を撒き散らしてくれますよ。
雅也:(持っていた軍手を力なく地面に落とす)私は在来種を根こそぎ駆除し、外来種の種子散布を丁重に保護していたということか。
まき:そういうことになりますね。館長さんの手厚い保護のおかげで、来年の春は外来種の妖精さんでお庭がいっぱいになりますよ。
雅也:副館長。今すぐ、あの綿毛を袋に収容してくれないか。自分の手で触れるのは、激しい敗北感がある。
まき:ふふふ。完璧な秩序も、春の風には勝てませんね。ちりとりを持ってきますから、一緒にお片付けしましょう。
(幕)
作・千早亭小倉
![[公式]箱庭の語り部 千早亭小倉](https://atelier-cocoan.com/wp-content/uploads/2026/04/20260410_125128.jpg)




