コント「カリカリ鳴るアオハル」

過去なんて思い出すもんじゃないよ。そこにいるのは青臭い自分。正義を振りかざすほどじゃなかった揉め事。誰からも大して愛されてなかったことの再確認。自分しか見えていなかったあの頃……なんてことを考えて作ったコントです。てへ

【登場人物】
えんぴつ(ぺらいちまい):映像制作グループのアナログな脚本担当。実務能力ゼロのハルキスト。
ハサミ(とりみんこ):映像制作グループの編集担当。男たちの重い自意識を冷酷に切り捨てる、スマホ世代の残酷な救済者。

【場面設定】
雑然とした部屋の机。二人がパソコンの画面を見ている。

はさみ:えんぴつぅ、この机にある四角い箱、さっきからずっとカリカリ言ってるよ。

えんぴつ:あ、それ俺の古いハードディスク。大学時代のデータが入ってるやつだ。

ハサミ:触るとちょっと熱い。早く中身を移さないと壊れるよ。これ、動画のファイルだね。開いていい。

えんぴつ:やめておけ。俺の青臭い過去が詰まってるから。恥ずかしくて見てられない。

ハサミ:(マウスをカチッと鳴らす)わあ、画面がずっと真っ暗。波の音みたいなのがザァーって鳴ってるだけだね。これ、壊れてるの。

えんぴつ:壊れてないよ。そこは、登場人物の深い悲しみを、あえて何も見せないことで表現したんだよ。

ハサミ:ただの放送事故にしか見えないけど。

えんぴつ:俺、あの頃は本気で、映画の力で人の心を変えられるって信じてたから。そういう尖った表現が必要だったんだよ。

ハサミ:にしても、長すぎるよ。ずっと暗いと眠くなる。ここ、切って2秒くらいにしちゃえばいいんじゃないの。

えんぴつ:2秒? 10秒でも足りないよ。間の重さが大事なんだ。この場面の長さについて、当時の仲間とすごく揉めたんだから。

ハサミ:揉めたって言っても、言い合いになったわけじゃないよね。

えんぴつ:俺は作品の真実を守るために、絶対に引かなかった。正しいことを貫いたってことだよ。

ハサミ:どうせまた、急に怒って、パイプ椅子を蹴り飛ばしたんでしょ。

えんぴつ:あれは、俺なりの表現への情熱があふれちゃっただけだよ。

ハサミ:蹴ったんだ。

えんぴつ:若かったしね。

ハサミ:ものに八つ当たりするのはよくないよ。人でもだめだけど。

えんぴつ:でも、みんな俺のそういう熱いところを認めてくれてたから、最後までついてきてくれたんだ。

ハサミ:ついてきてないよ。みんな、あなたが来る日は部室の鍵を閉めて、中にいないふりをしてたんだから。

えんぴつ:え、あれ、俺が一人で集中して台本を書けるように、わざと活動を休みにしてくれてたんじゃないの。

ハサミ:違うよ。あなたのポエムみたいな長い話を、ずっと聞かされるのが嫌だっただけだよ。

えんぴつ:嘘だろ。じゃあ、あの冬の日に、俺が部室のドアの前で、誰か来るかもって、冷え切った鮭のおにぎりを食べながら待ってたあの時間は。

ハサミ:そんなこと、誰も知らないよ。みんな、駅前のファミレスでチーズがのった温かいドリアを食べてたと思う。

えんぴつ:(驚き)えええ、(やがてテンションが下がり)ええ。そっか。なんか、自分しか見えてなかったんだね、俺。

ハサミ:かもね。

えんぴつ:誰からも愛されてなかったのか。

ハサミ:あ、今も似たようなもんだよ。ほら、この暗いところ、邪魔だから切っていいよね。

(沈黙。ハードディスクのカリカリいう音が続いている)

(幕)

作・千早亭小倉

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