水底に沈んだかつての中心街
活田地区は、ここあん村の中央部、すり鉢の底にあたる場所に位置しています。かつては村の近代化の象徴である「ここあんタワー」がそびえ立ち、ここあん大学のメインキャンパスが置かれた活気あふれる中心街でした。古くは「活田の庵」と呼ばれ、活きのいい村人たちが夜な夜な集まってどんちゃん騒ぎを繰り広げる宴会場のような役割も担っていました。
しかし、「あのこと」によって突如として水が湧き出し、地区の大部分が水没しました。現在は巨大な「ここあん湖」となっており、湖面からはここあんタワーの先端部分だけが突き出しています。夜通し騒いだ連中が、朝の仕事に出る際に、地区の名前にちなんで「かったるい」「かったるい」と言い合ったのも、今は昔の話となりました。

物理的な街並みは失われましたが、活田地区は今も村人たちの生活と不思議な形で関わっています。水源も水質も不明なこの湖の岸辺には、沈んだはずの大学の古いレポートや文房具など、かつての思い出の品が綺麗な状態で流れ着くことがあります。これらの品は、湖畔にあるここあん鉄道「大学前駅」の遺失物保管室に集められます。村人たちの多くはこの現象を「よくわからないけれど、そういうもの」「かつてのかった」として日常の風景に組み込んでいます。世界を論理で解明しようとする一部の知識人たちは、底知れぬ暗い水面に知的な畏怖を抱きながら対峙しています。「かつてが勝手に」とはいかないのでしょう。
渡良瀬愛子の居酒屋「ここきた」は、活田と小古庵の境界にあります。住所は「活田」であり、ここあん鉄道の「大学前駅」とともに、かつての活田を今に伝える砦となっています。





