箱庭コント335「2つの黄色いの」|はるなつコントシリーズ

【登場人物】
はるひこ:10歳。屁理屈が過ぎる長男。
まさよし:はるひこ・なつひこの父。イライラすると頭から湯気を出す弁護士。
みちこ:はるひこ・なつひこの母。いつも疲れている。
なつひこ:5歳。はるひこの弟。関心が白いレンゲから黒い虫眼鏡に移行中。

【場面設定】
昭和47年、世田谷区砧のはるひこ家の居間。テーブルの上には、みちこが焼いた「黄色いの※」の皿と、田舎の叔父「怒るおんじ」が置いていった木箱入りの「鶏卵素麺」が並んでいる。おんじさんはすでに帰ってここにはいない。みちこはソファで横になっている。
※黄色いの:小麦粉を卵などで溶き、フライパンで焼いた手作りの菓子。ふくらまないホットケーキのようなもの。

はるひこ:お母さん、「黄色いの」がふたつあるね。

まさよし:(新聞から目を離さず)まぎらわしい。おんぱりそ、おかあさんの作った方は「まあるいの」とでも呼べばいいだろう。

はるひこ:まあるくないのもあるもん。島みたいな形をしたのや、端っこが焦げてぎざぎざしたのとか。

みちこ:(ソファに沈んだまま)「黄色いの」がふたつ? なんとなくわかるから、どっちでもいいじゃないの。

まさよし:なんとなくで済むか。だったら、おんじさんが持ってきた方を「鶏卵素麺」と正しく呼べばいい。

はるひこ:これは、おんじさんがお土産に持ってくるから「黄色いの」なんだよ。鶏卵素麺とは違うでしょう?

まさよし:(新聞をバサッと下ろす)箱にしっかり「鶏卵素麺」と書いてあるだろう。おんじさんが持ってきたから名前が変わるなどと、屁理屈を言うな。

はるひこ:僕の頭の中では区別ができてるから、どっちも「黄色いの」で全然困らないよ。

まさよし:おんぱりその頭の中など知らん。言葉は他人に伝えるためにあるんだ。

(みちこがソファからゆっくり体を起こす)

みちこ:(机の上の湯呑に口を付ける)お茶、ぬるくなっちゃったわね。

まさよし:(頭からモアッと湯気を立てて)話をすり替えるな。この調子では家中の黄色いものがすべて「黄色いの」になってしまうだろう。

なつひこ:だっ!

(なつひこがおんじさんの置いていった丸ぼうろをひとつつかみ、テレビの前を横向きに飛び跳ねる)

はるひこ:あ、なっちゃんが「まあるいの」を持って、ぴょんぴょんしてる。おとうさん、「まあるいの」だよ。

まさよし:やかましい! それは、「茶色いの」とでも呼べ!

はるひこ:おとうさん、それ、丸ぼうろだよ。

(幕)

作・千早亭小倉


地層0を支えるものがたりやコント
恋流波家の系譜――舞台は昭和40年代後半の世田谷区成城ここあん村の物語につながる最も古い基層となる、1970年代の物語です。舞台は、高度経済成長期の残り香が漂う、世田谷区成城・砧が中心です。ここあん村の重要人物(?)恋流波陽の父、東彦の少年…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *引用の範囲を超える無断転載・複製を禁じます。 Copyright © 2025-2026 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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