第二話「他者との永続的な関係構築を恐れる男」|ここあん高校文芸部2

「『他者との永続的な関係構築を恐れる男』、か。高校生が選ぶには少し大人びたテーマだけれど、今の神崎君自身を映すには、これ以上ない鏡ね」

海野みかん先生は僕の肩に軽く手を置くと、いたずらっぽく微笑んで、僕の顔を覗き込んだ。

「ねえ、神崎君。一つ、実験をしてみない?」

「実験、ですか?」

「そう。『コンクリートの涙』を無理に進める前に、この『他者との永続的な関係構築を恐れる男』という同じ一つのテーマで、あなたの中にいる四人に、一本ずつ短編を書かせてみるの」

僕は息を呑み、すぐ横にあるみかん先生の横顔を見つめた。

「お題の初期配置は同じにするのよ。たとえば、小学生の頃についた『百階建ての家』という嘘、高校や大学で『DVD』を口実に誰かを部屋に招くこと、そして大人になって『終電』を逃した女性を部屋に泊める朝。君の実体験や、街で見聞きした話を混ぜていいわ。その同じ骨格を使って、無頼の彼、建築家の彼、お人好しの彼、気取り屋の彼に、それぞれ最後まで書かせてごらんなさい」

その提案は、僕にとって思いもよらない突破口のように響いた。

そうだ。一人の「正しい自分」として書こうとするから、天野さんの熱量とぶつかって動けなくなるのだ。いっそ、僕の中にいる四人の分裂した自分をすべて檻から出して、同じ条件で競わせてみればいい。

「書き上がったら、私だけじゃなくて、あなたと一番違う視点を持つ人たちにも読んでもらいましょう。そうすれば、誰が一番強くて、誰が一番嘘つきで、今のあなたに何が足りないのか、きっと自分の目で見極められるはずよ」

背筋を、今まで感じたことのない種類の、静かな興奮が駆け上がった。データを固定し、ペルソナという変数だけを変えて出力を比較する対照実験。それは、僕の「分析癖」に最も合致した戦い方だった。

「面白そうですね、海野先生」

僕が顔を上げて答えると、みかん先生は「うん」と嬉しそうに頷き、僕の肩を軽く二度叩いてから離れた。

「じゃあ、原稿が上がるのを楽しみに待っているわね。あまり頭でっかちにならずに、言葉の手触りを楽しんで書いてちょうだい」

空き教室を出た僕の足取りは、来た時よりもずっと軽くなっていた。 四人の僕による、孤独の解剖実験。

僕は部室へと戻り、堂島が黙々と建築雑誌をめくり、天野さんがスケッチブックを広げている長机の端で、新しいルーズリーフを四つの束に分けた。

(第三話へ続く)

作・千早亭小倉


第二部「ねえ、体温にも色があるって聞いたんだけど?」
本編は、ここあん高校を舞台にした、「文芸部長の黒崎さんは、僕のことなどゴミムシ同然だと思っている。」シリーズに続く、第二弾です。第一部までのあらすじ、主な登場人物紹介は、この下にあります。第一部までのあらすじここあん高校に通う神崎一樹は、人…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *引用の範囲を超える無断転載・複製を禁じます。 Copyright © 2025-2026 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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