箱庭小説

箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「割れない鏡」

アスファルトが八月の陽光を照り返している。東風公園応急仮設住宅の集会所。首を振る扇風機の音と、数人の子供の声。それ以外は沈黙だった。氷上静はパイプ椅子に浅く腰掛け、その沈黙の中にいた。ここあん村を襲った「あのこと」から数年。母の冬子に連れら...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「深夜の猿哲学」

深夜の編集プロダクション「ぽんちょ」。コピー機の微かな駆動音だけが響くオフィスで、学生アルバイトの恋流波陽こひるははるは、一人でゲラの山と格闘していた。「……終わらない」小さくため息をつき、首を回した時だった。「お疲れ様、はるくん」給湯室の...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「検索窓の幽霊たち ――15歳のための存在論」|「物語の寄港地」シリーズ

ここあん村・寄港地シリーズ。ブックカフェ「シズカ」で、15歳の小説家・鴨下栞がネット検索と人間の存在について問いかける。哲学者の氷上静はバークリーの思想を引き、あえて検索せず輪郭を曖昧にしておく贅沢さと防衛術を説く。知的好奇心に満ちた二人の鮮烈な現代対話劇。
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「夏風邪のダバダ」

午前四時。常盤荘の外階段の最上段で、朝霧沙緒はコンクリートに直に座っていた。素肌の上に羽織った綿のシャツの隙間から、冷たい風が入り込む。ライターのフリントを擦り、煙草に火をつける。息を吸い込み、吐き出すと、外灯の光の中で煙が白く広がった。沙...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「呼吸」|「物語の寄港地」シリーズ

ここあん村・寄港地シリーズ。映画の主人公を「自己欺瞞」と冷徹に分析する思想家・氷上静。だが同居する中野小春の何気ない共感の言葉が、強固な理性の鎧の内側に潜む静の孤独と渇望を不意に暴き出す。壊れた心を優しく肯定し合い、静かに呼吸を重ねる二人の親密な夜を描いた掌編。