【登場人物】
郷田 剛(70歳):ここあん村商店街の会長で、スーパー「人生」のオーナー。自分の銅像を建てる野望を持つ。
権田 猛(24歳):郷田の甥。ここあん大学院で技術地政学を学ぶ院生。叔父の屋敷の離れに住み、スーパーでこき使われている。
【場面設定】
スーパー「人生」の正面入り口。開店前の静かな時間。
権田猛:叔父さん、その段ボール、自動ドアのセンサーに引っかかってます。
郷田剛:猛、そこは計算済みだ。
猛:ドアがずっと開きっぱなしで、店内の冷気が外に逃げてます。
剛:英雄の登場には、風が必要なんだよ。
猛:英雄っていうか、ただの叔父さんの等身大パネルじゃないですか。
剛:これを叩き台にして、本物のブロンズ像を発注するんだ。
猛:駐車場のど真ん中にこんなものを建てるのは、物流への宣戦布告ですよ。
剛:「郷田でGO」だ。車の方が避ければいいだけの話だろ。
猛:このネギだって、隣の村の道路工事のせいで届くのが遅れたっていうのに。
剛:そんな細かい数字はどうでもいい。数字なら、皆の心に響く台座の高さでも弾き出せ。
猛:僕の修士論文、叔父さんの手伝いのせいで一行も進んでないんです。
剛:ネギを並べるのも、立派な地政学の勉強だろ。
猛:……僕の専攻を、特売のネギと一緒にしないでください。
(猛は諦めたように、足元の泥がついた段ボールを持ち上げる)
剛:ほら、腰を落として、もっと威厳のある顔でそのネギの箱を持て。
猛:銅像のモデルにする気ですか?
剛:親戚の中で、一番お前が俺の若い頃に似てるんだよ。
猛:それ、僕にとっては最大級の悪口ですよ。
(幕)
作・千早亭小倉
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