コント「みどりのキュウリ」

【登場人物】
緑野 翠
:ここあん村の村長。ビリジアンのドレスを愛用。理想主義的だがどこか抜けており、「てへっ」が決め台詞。
矢尾 リリカ:ここあん高校の女子高生。「冷たい最強」。冷徹でシニカルな性格で、大人の都合のいいポエジーを軽蔑している。

【場面設定】
放課後。五角形の巨大塔「ペンタ」の下層階にある、ここあん高校の教室。「みどりの日」の特別講話が終わり、生徒たちが帰った後の教室で、リリカが一人、ウディ・アレンのペーパーバックを読んでいる。そこへ、大きな段ボール箱を抱えた翠が、息を切らして入ってくる。

緑野翠:(段ボール箱を教卓にドスンと置き)……上から読んでもミドリノミドリ、下から読んだらリドミノリドミ。てへっ。

矢尾リリカ:(本から視線を外さず)……それ、さっき体育館で全校生徒に向けて言ってましたよね。なんでわざわざ、放課後に居残ってる私のとこに来てまでリピートしてるの。

:だって、誰も笑ってくれなかったんだもの。それに……ほら。

(翠が段ボール箱から、無造作にキュウリを一本取り出し、リリカの机に転がす)

リリカ:……なにこれ。

:みどりの日の、記念品。

リリカ:包装もされてない、むき出しのキュウリ。カバンに入れたら教科書が濡れるし。みんなが受け取らずに逃げた理由、普通わかるでしょ。

:失礼ね。農家さんが朝早く採ってくれた、愛情たっぷりのキュウリよ?  ほら、この表面のイボイボ。新鮮な証拠じゃない。

リリカ:(冷ややかな目でキュウリを見る)……触ったら痛そう。だいたい、このペンタの中でキュウリ配るの、状況に合ってないよね。窓の外、霧と湿った石壁しかないし。植物の生命力とか言われても、全然ピンとこない。

:だからこそよ。環境がどうであれ、心の中に緑を育てることが大事なの。私たちには、あの災害を乗り越えたレジリエンスが……。

リリカ:出た。大人のポエジー。そうやって聞こえのいい言葉で中身のなさをコーティングするの、ほんと厚顔無恥。ウディ・アレンの映画に出てくる、現実逃避してるエセ知識人みたい。

:リリカさんって、ほんとに……冷蔵庫の奥で忘れられたレタスみたいに冷たいのね。

リリカ:……例えの解像度が低すぎて、逆に笑っちゃう。私はただ、この謎の塔をエレベーターで登下校してるだけの、コスパ重視の高校生なだけ。

:でもね、私、思うのよ。こうして机にキュウリを置かれて、文句を言いながらもちゃんと付き合ってくれるリリカさんみたいな人がいるから、私は村長をやっていけるんだなって。

リリカ:(ため息をつき、本をパタンと閉じる)……その「てへっ」って空気出して、自分の計画性のなさをチャラにしようとするの、ほんとやめたほうがいいよ。

:てへっ。

リリカ:言ってるそばから。……で、その段ボールに詰まってる大量の在庫、どうするつもり。

:どうしようかしらね。とりあえず、各教室の教卓に一本ずつお供えしてこようかしら。

リリカ:……やめなよ。明日、絶対『キュウリの呪い』とか言われて怪談になるから。

:じゃあ、リリカさん、もう三本くらいどう?

リリカ:いらないってば。……でも。

:ん?

リリカ:……塩、あります?

:えっ?

リリカ:塩。それか、マヨネーズ。そのままかじるのは、流石に青臭くてキツい。

:(パァッと顔を輝かせて)あるわよ! 役場のお弁当についてた、余りの塩パック!

(リリカ、深くため息。そこへ塩を取りに行ったはずの翆が顔を覗かせる)

:あ、リリカにカリリ。何ターンか前で、「この謎の塔をエレベーターで登下校してるだけの、コスパ重視の高校生なだけ」って言ったけど、「だけ」がダブっててコスパ悪かったわよ、てへ。

リリカ:ターンって。

(幕)

作・千早亭小倉

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