【登場人物】
おはぎはん:フリーライター。現場主義で熱血。W杯決勝リーグに向けて気勢を上げたい。
真田 まる:「ものがたり屋」店主。おはぎはんの良き理解者。
【場面設定】
椎名町三丁目、古民家「ものがたり屋」。夜。

おはぎはん:明日はいよいよW杯のブラジル戦や。ここはひとつ、ブラジル料理を作って気勢を上げなあかん。
真田まる:ブラジル料理? おはぎ、あんた、そないな横文字の料理作れるん?
おはぎはん:それがな。シュラスコとか言うらしいんやけど、うちの台所にはそんな肉の塊ないねん。
まる:ここにもないよ。
おはぎはん:せやから、もう「ブラ汁」でええかと思うてな。
まる:ブラジル。なんやそれ、国名そのままやん。
おはぎはん:ブラジルの汁で、ブラ汁。ブラの入った汁や。でもな、まる。ブラってなにがあるやろな。
まる:なにがあるって、急に聞かれても。そうやね。雨上がりの風が強い日に、物干し竿の端っこで落ち着きなく揺れてるシャツの袖みたいやね。ブラブラのブラや。
おはぎはん:それや!
まる:そんな簡単に決めてええの?
おはぎはん:サッカーは数秒あればゴールが決まるスポーツや。見てるこっちかて、スピード勝負や。そやな、串に刺したこんにゃくやら牛すじやらが、お鍋のなかでブラブラ揺れてる汁物。これぞ情熱の国、ブラジルや。
まる:おはぎ。それはただの煮立たせすぎたおでんやないの。
おはぎはん:ちゃうわ。地球の裏側のサンバのリズムが、お出汁のなかで激しく踊っとるんや。
まる:サンバねえ。火を強くしすぎて、お鍋の底に張り付いた大根の焦げた匂いしか想像できへんわ。
おはぎはん:その通りや。情熱は焦がしたらあかん。弱火でじっくり、ブラブラ揺らしながら煮込むのが本場のブラ汁やな。
まる:どこが本場なんや。椎名町三丁目か? 完全に話が迷子になっとるよ。
おはぎはん:細かいことはええねん。勢いが大切なんや。今からスーパー「人生」で、いちばん踊りそうな牛すじ買うてくるわ。
まる:はいはい。お出汁が吹きこぼれんように、お鍋の蓋は少しずらすんやで。
(幕)





