崩れた物語を編み直す、消える路地の聖域
椎名町三丁目。昭和の幻影を上映し続ける映画館「まひる座」と、潮騒の匂いが染み付いた居酒屋「海」。その狭間に、大人一人が肩を窄めてようやく通れるほどの細い路地があります。どんつきの蔦に覆われた築六十年の古民家が「ものがたり屋」です。
「ものがたり屋」には看板がありません。ただ、錆びついたインターホンの脇に「あなたの物語、聴きます」と書かれた古びたシールが貼られているだけ。ここは、誰でも入れる場所ではありません。道に迷い、己の言葉を失い、人生という物語の糸がもつれて解けなくなった人だけが、ふとした拍子に辿り着く「消える路地」の終着点なのです。

傷を慈しむ、金継ぎの空間
店内には、叩きの土間が広がり、外界の喧騒は入ってきません。壁一面に並んだ薬棚のような小さな引き出しには、かつての客たちが置いていった「物語の断片」が眠っているといわれます。
ものがたり屋は、何かを解決する場所ではありません。 ただ、縺れた糸を解き、再び歩き出すための「余白」を、おはぎの甘さと肌の温もりとともに提供する場所なのです。

静寂を編む、三人の調律者
重い引き戸を開けると、使い込まれた廃材の一本板カウンターが客を出迎えます。ここで客を待つのは、三つの異なる「体温」。
真田まる(まるさん) 店主であり、物語の編み手。カウンターで隣り合い、柔らかな京都弁で客の言葉を拾い上げます。彼女は単なる聞き手ではありません。客が吐き出す後悔や、形にならない祈りを、肌の温もりとともに受け止め、壊れた物語を美しい織物へと編み直していくのです。
おはぎはん 店に漂う甘い匂いの主。客が物語に溺れすぎないよう、絶妙なタイミングで茶を淹れ、自慢のおはぎを差し出す女性。彼女の存在は、重苦しい告白の場に「今、ここにある生」の喜びを添えてくれます。その包容力のある微笑みと実直な手仕事が、ものがたり屋の土台を支えています。……時に、やかましいだけと言われることも。
椎名町助(助さん) 二階の「観測塔」に潜む影。膨大な書物と古い紙の匂いに囲まれ、一階の気配を静かに見守っています。彼はけっして表に出ることはありませんが、その「背景」としての存在感が、この場所に世界の終わりを笑い飛ばせるような、奇妙な安心感を与えてくれます。
ものがたり屋が舞台の主なものがたりやコント
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