コント「ジョージとベン」鴨下留美子

【登場人物】
シーガル
:白い全身タイツに顔まで真っ白な、石膏人形のような男。微動だにしない。
シャーン:常に首を45度に曲げ、震えるような細いペンで空中に線を引いている男。
学芸員:閉館作業をしている普通の人。

【場面設定】
夜の美術館。中央にシーガルが椅子に座って固まっている。

学芸員:(掃除をしながら)ふう、今日も疲れたな。……よし、このシーガルの像も異常なし。相変わらず真っ白で、何考えてるか分からなくて不気味だな。

(学芸員が去ろうとすると、背後から「カサカサ……」という音が聞こえる)

学芸員:(振り返る)……誰だ?

シャーン:(首を真横に曲げた状態で、影からスッと現れる)シャーン!

学芸員:うわっ! びっくりした! そんなシーンとジャーンの中間みたいな声だして。ええと、シャーンの絵から飛び出してきた人ですか? 首、曲がってますよ?

シャーン:(震える声で)この角度が……社会の歪みを……最もよく捉えられるのだ……。

学芸員:はあ、そうですか。で、閉館時間なんですけど。

シャーン:(無視。シーガルの像を指さして)おい、そこの白いやつ。さっきから黙って聞画(きかが)していれば……お前、あまりに「無」すぎないか?

シーガル:(ゆっくりと立ち上がる。全身真っ白)私は「日常」を切り取っているだけだ。それより、聞画などと、そんな言葉こそ「無」ではないか。

学芸員:喋った! 石膏人形が喋った!

シーガル:シー(人差し指を口元に立てて、「静かに」のポーズ)ガル。

学芸員:石膏がボケた。

シャーン:日常だと? お前のはただの「モルタルを被ったサボり」だ。見てみろ、私のこの「震える線」を。この線一本一本に労働者の悲哀と、冤罪への怒りが詰まっているんだ。

シーガル:線の細かさで勝負する時代は終わった。これからは「空間」だ。私がそこに座るだけで、周囲の空気は一瞬にして「都会の孤独」に変わる。

シャーン:(食い気味に)私の描く女の子の「首の曲げ方」の方がよっぽど孤独だ! ほら、こうだ!(さらに首を曲げて学芸員を凝視する)

学芸員:やめてください、夢に出そうです。

シーガル:(静かに椅子を持ち上げ、学芸員の隣に置く)君、ここに座りなさい。

学芸員:え、私がですか?

シーガル:そう。私が君の肩に手を置く。するとどうだ。

(シーガルが真っ白な手で学芸員の肩に置く)

学芸員:なんか、急に自分が「人生に迷った深夜のダイナーにいる客」みたいな気分になってきました。寂しい……すごく寂しいです。

シャーン:(焦って)負けんぞ! 私が君の背景に「かすれた青い影」を描き込んでやろう! そして、意味深な文字も書き足してやる!

学芸員:やめて! 急にポスターみたいになっちゃう!

シャーン:さあ、もっと首を曲げろ! 社会への疑問を首の角度で示すんだ!

シーガル:いや、そのまま固まれ。真っ白な粉をかけてやろう。君も今日からパブリック・アートだ。

学芸員:どっちも嫌だよ! 帰らせてくれ!

(学芸員、逃げ出す)

シャーン:(首を曲げたまま)逃げたか。

シーガル:(ゆっくり椅子に座る)まあ、最近の学芸員はあんなものだ。

シャーン:なあ。

シーガル:なんだ。

シャーン:お前、その体……ちょっと塗り残しがあるぞ。

シーガル:(自分の肘を見て)本当だ。

シャーン:貸してみろ、私の「震える線」で補筆してやる。

シーガル:それだけはやめてくれ。

(暗転)

作・鴨下留美子

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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