箱庭コント38「ちょんまげが2本生えた日」

【登場人物】
 徒然士
:51歳。文芸評論家。完璧な様式美を尊び、時代錯誤な着物姿を貫く偏執狂。プライドが高く、自分の価値を認めさせようと必死。
鴨下 留美子:60代。劇団「かもかも」の演出家。元伝説の文芸編集者。徒然士の才能を買いながらも、その扱いを熟知している。
ダダダさん:60歳。自称「不思議おじさん」。相手の言葉をそのまま肯定する「完全共感体」。意味を剥ぎ取られた真空のような存在。

【場面設定】
椎名町三丁目、アパート「常磐荘」の管理人室。デスクには、新しく配られたばかりの「ここあん村住民リスト」が置かれている。

徒然士:(震える指でリストを指し示し)か、鴨下さん。これ、何かの間違いではありませんか?

留美子:(老眼鏡をずらし、赤ペンを回しながら)あら、徒然つれづれさん。また誤字? あなたの名前、また「徒然草」になってたとか?

徒然士:まず、あなたのその呼び方です! 私は「ただぜんじ」です。何度言えばお分かりになるのですか! そして今回は表記ではありません、順序です! なぜ五十音順の名簿で、この、この「ダダダ」とかいう意味の破片のような御仁が、私より一つ上の行に鎮座しているのですか!

ダダダさん:ほんとだねー。

徒然士:(少しぎょっとして)いつの間に! 単純に五十音順で言えば、「た」だぜんじの私の方が、「だ」だださんより先に来るのが当たり前でしょう!

留美子:ああ、それ。名簿の作成者も、あなたの名前を「つれづれ」だと勘違いしたんじゃないの? それなら、「だ」よりも「つ」の方が後になるでしょう。解決。

徒然士:か、解決ですと? だとしたら、なぜ私はこの「丹波たんばりん」より前にあるのですか! もし「つれづれ」なら丹波さんより下になるはずでしょう! 五十音順の法則が完全に崩壊している!

留美子:うーん……あ、思い出した。作成者の人がね、「ダ行のほうがタ行より上だ」って言ってたわ。濁点がある分、「重い」からって。解決。

徒然士:(絶句して天を仰ぐ)重さの定義が物理的すぎる。嘆かわしい。言葉の序列とは、そのような表面的な質量ではなく、精神の深淵によって決定されるべきものです。

ダダダさん:ねえ、何かおもしろいこと言って。

徒然士:今、私がどれだけ深刻な実存的危機に瀕しているか分からんのか! これでは私の「知の要塞」が、この男の「全肯定」という泥沼に呑み込まれてしまう!

ダダダさん:ほんとだねー。

留美子:徒然ただぜんさん、いいじゃない。ダダダさんは「空っぽの神様」なのよ。神様の下に名前があるなんて、むしろ光栄なことだと思わない?

徒然士:神? これが神ですか? ただの返事の自動機械ではないですか!

ダダダさん:ほんとだねー。

徒然士:(額の汗を拭い)くっ、この、暖簾に腕押しのような感覚。ちょんまげ生えるわ。

留美子:あ、ひさびさ本人から聞いた。自分の論理が通じない時に出る、徒然ただぜんさんの負け惜しみ。

徒然士:負け惜しみではありません! これは、あまりの不条理に対する、私の魂の叫びです! 鴨下さん、今すぐこのリストを修正してください。私の名を一番上に。せめて、この「ダ」の字を私の視界から消して……!

留美子:却下。刷り直す予算なんてないわよ、きっと。それに、ダダダさんが上にいたほうが、リスト全体の「バグ」が緩和されるって評判なのよ。なんか、ゆるい並びなんだなって感じで。

徒然士:(膝から崩れ落ち、畳を叩く)私の、私の五十年かけて築き上げた文壇の矜持が……。

留美子:どうせなら、これを機に、ダダダンジって改名したら?

徒然士:せんわ!  ちょんまげ二本生えるわ!

ダダダさん:ホントだねー。

(了)

作・千早亭小倉

徒 然士|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:徒 然士(ただ ぜんじ)年齢・性別: 51歳・男性肩書: 小説家、文芸評論家、私立ここあん大学日本文学科講師・・・はっ、さて。諸君、静粛にしたまえ。これから、このわぁたくしが、わぁたくし自身のことを、わぁたくしのために語ってやろうとい…
ダダダさん
年齢・性別 :60代・男性肩書:不思議おじさんあらゆる事象を「ホントだねー」と受け入れる、ここあん村の「完全共感体」です。「なんか面白いこと言って〜」という言葉で相手の物語を強制的に引き出し、一切の私情を挟まない「ホントだねー」で応じること…
鴨下留美子|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:鴨下 留美子(かもした るみこ)年齢・性別:60代・女性肩書:文壇アパート「常磐荘」大家、劇団「かもかも」演出家、鴨下栞の母かつて数々の名作を世に送り出した伝説の文芸編集者であり、現在は才能ある作家たちの聖域を守る番人を務めています。…
無名作家の奈落「常磐荘」|箱庭ここあん村の中心スポット
椎名町3丁目の路地裏に位置する「常磐荘」は、単なる古いアパートではありません。そのコンセプトは「時代から忘れられた物語を育む、懐かしい未来の苗床」。社会のメインストリームからはみ出してしまった表現者たちが、傷を抱えたまま再び筆を執り、新たな…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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