コント「ちょんまげ羅生門」

【登場人物】
宏原 こはな(おはなはん)
:FMここあんのミキサー。タイムテーブルの死守が至上命題。
鈴本 美沙(ミサンガ):FMここあんのDJ。天然で権威を粉砕するクラッシャー。
高橋 あゆみ(あゆ):FMここあんのDJ。昭和歌謡マニア。
徒然士:ここあん大学講師。完璧な様式美を求めるが、今回は急いで来たため着付けが甘い。

【場面設定】
プレハブ仮設スタジオ。生放送の開始前、三人娘が本日のゲストである徒然士について打ち合わせをしている。

あゆ:今日のゲスト、徒然士先生でしょう? とっても楽しみ。先生の「ちょんまげ生えるわ」を生で聞けるなんて、昭和のテレビ放送黎明期の躍動を感じるわ。

おはなはん:黎明期って、シャボン玉ホリデーとかの? あゆ、生まれてないじゃないの。ミキサーの私としては、今日は本気で進行が心配なのよ。徒然士先生の日本文学の講義、90分のコマなのに自分の熱量に酔って毎回必ず120分話すから、次の講義に食い込むって、ここあん大学の学生にすっごい評判悪いのよ。生放送でそんなことされたら、タイムテーブルが完全に崩壊よ。

ミサンガ:それって、もともと2時間授業だと思ってるとか? うちは、スポンサーの縛りもないんだから、神経尖らせなくてもいいんじゃない? ねえ、それより、これどう? 小道具で「時代劇のヅラ」用意したんだけど。

おはなはん:づ、ヅラ!? ラジオだよ?

ミサンガ:本番でね、「徒然つれづれ先生、これ被ってみてもらえませんか?」って渡したら、絶対ノリノリで「ちょんまげ生えたわ!」って言いながら被ってくれますよ! 

おはなはん:言わないって! あと、徒然先生じゃないから、ただが苗字で、然士ぜんじが名前だからね。怒られるよ。おはぎ(おはなはんの妹のおはぎはん)が取材に同行した時、「世間の浅薄な二元論が嘆かわしい。ちょんまげ生えるわ!」って、眉間に皺を寄せて激怒したって聞いたよ。そんな人にヅラなんか被せたら、私らへの説教が延々放送されちゃうかも。ひええ。

ミサンガ:でも、私が居酒屋近くで見かけた時は、「わははは、これはちょんまげが2本生えるわ!」って大笑いしてましたよ。うれしいときに、生えるんじゃないんですかね、先生のちょんまげ。今日も、「なんだ、このヅラは、一本足りんじゃないか、わはははは」ってなりませんかね。

あゆ:おはなはんもミサンガも、先生の表面しか見ていないのね。先生の「ちょんまげ」という言葉の裏には、壁際に寝返り打って、背中で聞いている昭和の男の哀愁があるんですよ。私は今日、先生には背中でじっくり語ってもらいたいんです。

ミサンガ:阿久悠ワールド。

おはなはん:背中で語るって、ラジオだからね。おはぎは「怒ってた」って言うし、ミサンガは「笑ってた」って言うし、あゆは「泣いてる」って。同じ人間の、同じ口癖なのに、見事に『羅生門』じゃない。もう、心配しか、無い。絶対、何かありそう。

ミサンガ:そりゃあるでしょう、これだから。(自ら、時代劇のヅラをかぶって見せる。意外と可愛い)

おはなはん:ぷっ、やめてよ。

(ミサンガが、おはなはんにヅラをかぶせる)

おはなはん;やめて、ちょんまげ。いや、やめて!

(間が悪く、ミサンガの後ろのドアが開き、徒然士が入ってくる)

ミサンガ:あ、ちょんまげ先生! 違った、ええと。

徒然士:(ミサンガに)だれが、ちょんまげ先生だ。

おはなはん:(づらをかぶったまま)ミサンガ、「ただ」、「ただぜんじ」、「ただぜんじ」だから。

徒然士:(おはなはんに)人を呼び捨てにするとは、無礼千万。まったく、ちょんまげ生えるわ!

あゆ:(目をうるませて)やっぱり「生」は違う。なまはげ。

徒然士:(あゆに)なにが、なまはげだ。ちょんまげだ。

おはなはん:終わった。始まる前から。

(幕)

作・千早亭小倉

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