コント「椎名町のダバダーな夜」

【登場人物】
朝霧 沙緒
:常磐荘に住む小説家。世界のすべてを退屈と捉える、けだるい悲しみのミューズ。
鉄 美鈴:ここあん鉄道の駅員。定時運行と秩序を何よりも重んじる、規律の番人。

【場面設定】
深夜のここあん鉄道「3丁目駅」ホーム。最終列車が発車した後の静まり返った空間。ベンチに朝霧沙緒が座り、足を組んで虚空を見つめている。鉄美鈴が白手袋の指先を伸ばし、ホームの安全確認を行っている。

朝霧沙緒:ダバダ、ダバダバダ。

鉄美鈴:お客様。本日の営業は終了いたしました。速やかに改札外への退出をお願いします。

沙緒:もう少しだけ、ここにいさせて。何もない空間が好きなの。ダバダ、ダバダバダ。

美鈴:無意味な滞在は防犯上推奨されません。それに、先ほどから発声されているその音声信号は何ですか。

沙緒:ただのスキャットよ。大人の嘘の音。

美鈴:スキャットですか。気になっておりました。ダバダ、ダバダバ、ダバダバダ。それぞれ音の数が違いますが、そこに明確な運行規則は存在するのですか。

沙緒:規則なんてないわ。ただの気だるい息の漏れよ。

美鈴:規則がないなどあり得ません。そもそも、なぜ「ダ」と「バ」の二音だけで構成されているのですか。「パ」や「マ」ではいけないのですか。

沙緒:パマパマ言っていたら、間抜けなラッパみたいじゃない。ダとバの濁音には、人生の泥水のような重さと響きがあるのよ。

美鈴:有声破裂音と有声両唇破裂音の組み合わせですね。しかし、音節が増えるごとにその重さの定義が変わるのでしょうか。ダバダは三両編成、ダバダバダは五両編成のように。

沙緒:編成で数えないでよ。ため息の長さに意味なんてないの。

美鈴: 意味のない音声信号はダイヤの乱れを招きます。音節の広がりから見れば、ダバダが徐行、ダバダバが注意、そしてダバダバダは進行と定義するのが妥当です。速やかにそのテンポでの発声を停止してください。

沙緒: 言葉で定義した瞬間に、愛も歌も夏風邪みたいに終わってしまうのよ。駅員さん、あなたも一緒にどう? シュバドゥバ、シュバドゥバ。

美鈴: 待ってください。「シュ」と「ド」が混入しました。これは一体どういう規則ですか。先ほどの有声破裂音の規則性を完全に無視しています。

沙緒: 深夜から朝霧に変わる時間帯のスキャットよ。ただの、けだるい吐息。

美鈴: 朝の臨時ダイヤということですか? 「シュバドゥバ」は待避線への進入信号ですか、それとも車両基地への回送合図ですか。これでは安全運行の基準が崩壊します!

沙緒: 回送でもいいわね。どこか遠くへ運んでいって。シュバドゥバ。

美鈴: 応答しないでください! 私は秒単位で呼吸のペースを管理しています。そのような未定義の信号に惑わされるわけにはいきません。

沙緒: そう。じゃあ、私は始発が来るまで、ここで退屈を歌い続けるわ。ダバダ、シュバドゥバ。

美鈴: 混変調を起こしています! 始発まであと5時間12分、私の耳の秩序が持ちません。

(幕)

作・千早亭小倉

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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