【登場人物】
古河 モン太郎:編集プロダクション「ぽんちょ」社長。直感と熱量で動く。
千田 千冬:ネイルサロン「サウザンサウザン」オーナー。無駄を嫌う超合理主義者。
【場面設定】
千冬のネイルサロン「サウザンサウザン」。モノトーンで統一された無駄のない空間。千冬が自分の爪の手入れをしているところに、モン太郎が勢いよく入ってくる。

古河モン太郎:千冬さん! いい企画を思いついたんだ。次の月刊『ぽんちょ』の表紙、あんたの指先で飾りたい!
千田千冬:(顔を上げずに)お断りします。私のサロンの客層と、あなたの泥臭いタウン誌では、ターゲット層がまったく一致しません。時間対効果がマイナスです。
モン太郎:お、タイパってやつだな。さすが令和生まれ。
千冬:平成生まれです。
モン太郎:あんたのその、一切の無駄を省いた完璧な爪と昭和の泥臭さのコラボ。採りたてのイカを力強く握りしめてくれ! そのコントラストに、圧倒的な生命の熱が宿るんだ!
千冬:(手を止める)とりたてのいか! ジェルネイルの強度が低下する恐れが。却下します。
モン太郎:そこをなんとか! 海の匂いこそが、人間の本能を呼び覚ますんだ。頼む、どうしてダメなんだ! 理屈じゃなくて、あんたの心で答えてくれ!
千冬:(モン太郎の暑苦しい顔を真っ直ぐ見据える)いやだから、いやだ。
モン太郎:(目を見開く)
千冬:(視線をそらさず無言を貫く)
モン太郎:(突然、大声を上げる)内田百閒来たー!
千冬:(肩をびくっと跳ねさせる)な、なんですか。
モン太郎:内田百閒だよお。門がまえに月。昔のフォントじゃ、なかなか出なかったんだぜ。イカだから、イカ! いや、いやだから、いや。くううううっ、平成生まれにしとくには惜しい!
千冬:(机の上のマニキュアの小瓶をそわそわ並べ直す)ああ、江戸や明治あたりから昭和にかけて活躍した、その、門がまえに月の方ですよね。非常に、門がまえに月的な、独自の世界観で。
モン太郎:(すっと真顔になり、声のトーンが落ちる)なんだ、知らねえのか。
千冬:(息を呑み、小瓶を並べる手が止まる)
モン太郎:(あからさまに興味を失い、背を向ける)つまらねえ。じゃあ、泥つき大根の話は無しということで。
(モン太郎、あっさりとドアを開けて店を出ていく)
千冬:(一人取り残され、綺麗に整列したマニキュアの小瓶を見つめる)大根? 今の、私が悪いんですか。
(幕)
作・千早亭小倉
![[公式]箱庭の語り部 千早亭小倉](https://atelier-cocoan.com/wp-content/uploads/2026/04/20260410_125128.jpg)


