箱庭コント「翠の『てへっ』は文化財」

【登場人物】
緑野 翠みどりのみどり:ここあん村村長。村を完全に掌握しようとする理想主義者だが、不都合な現実は「てへっ」でごまかす。
三成みつなり ミツヒデ:ここあん大学日本文学科講師。テクストの解剖医。「要するに」で相手の自意識を身も蓋もない言葉に翻訳し、相手がショートする姿に恍惚とする。

【場面設定】
ペンタ5階の村長執務室。分厚い人口統計の資料を前に、翠が不満げに腕を組んでいる。向かいの席には三成ミツヒデが座り、静かにタブレットを操作している。

緑野翠:だから、何度言ったらわかるのミツヒデさん。この村の登録人口は150人よ。あなたが持ってきた「日々5000人以上が活動している」というデータは、ただの炭素の塊の移動記録です。この村の住人になるには魂の審査が必要なの。残りの4850人は、ただ息をして通り過ぎているだけの『背景』よ。

三成ミツヒデ:(タブレットから顔を上げ、穏やかな笑顔で)村長。常々疑問だったのですが、あなたのその「魂の審査」というフィルター機能は、村の経済圏における流動人口の消費行動を非実在化するパラメーターとして作用しているということですか?

:ヒジツザイカ? 私の掌握する世界観の中では、彼らは風景と同じだと言っているのよ。

ミツヒデ:……失礼。専門的すぎましたね。要するに、「村長が名前を覚えていない連中からふんだくっている税金や、スーパー『人生』での売上は、全部幽霊のお金だから、村の予算がスッカラカンになってもいい」ということです。さっそく、我が大学への助成金も幻として処理しておきますね。

翠:ま、待って! お金は実在するわ! そこまで言ってないじゃない!

ミツヒデ:金銭的利益を実体として享受しながら、その供給源を「背景」と定義するのは、認知的不協和の極みですね。……失礼、分かりづらかったですね。要するに、「都合のいい時だけ彼らを財布扱いする、村長のその見栄っ張りで自己中心的な脳内設定が、この村で一番のバグだ」ということです。

:バ、バグ……! (顔を赤くして立ち上がり)な、なんて言い方をするの! 私はこの村の歴史と文化を守るために、必死に行政のトップとして……トップとして……てへっ!

(翠は論理で言い返せなくなり、両手で顔を挟んで強引に愛想笑いを作る)

ミツヒデ:(一切動じず、冷静に)その意図的な音声信号の表出による論点のすり替えは、対人関係において極めて非効率的なデバフです。……失礼。要するに、「そんな可愛子ぶってごまかせる年齢じゃないですよ」ということです。

:…………っ!

(翠の笑顔が完全に凍りつき、そのままショートして白目を剥きそうになる。両手で頭を抱え、執務机に突っ伏して完全にフリーズする)

ミツヒデ:(机に突っ伏した翠を見つめ、不規則に脈拍を跳ねさせる)素晴らしいです、村長。事実から目を背け続けた人間の強固なプライドが、たった一つの客観的データによってエラーを起こし、無惨に崩壊していく。この美しいバグの発生を観測することこそ、僕にとって至上の快楽。ああ、僕の内部データが、今、甘く書き換えられていきます。

:(突っ伏したまま、微かに寝言のように)て、てへっ……。

ミツヒデ:(恍惚とした表情から一転、冷静にタブレットを操作し)防衛機能として漏れ出たその音声信号、極めて興味深いサンプルです。村長、この際、その「てへっ」も村の共有財産としてアーカイブ化しましょう。

:(顔を伏せたまま、必死に)こ、これだけは、だめ。これは、村の「無形文化財」のようなものでしょう。

ミツヒデ:(冷徹に、かつ嬉しそうに)それなら、なおさらです。

(幕)

作・千早亭小倉

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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