箱庭コント120「欲望を映す鏡」

【登場人物】
古暮 賢人
:ここあん大学院生(M1)。複雑系科学専攻。常に世界の崩壊に怯え、周囲の空気を重くする小心者。
平泉 慧:ここあん大学院生(M2)。理論物理学専攻。エネルギー保存の法則を遵守し、一切の無駄を嫌う省エネ主義者。
金田 エリ:ここあん大学院生(M1)。進化心理学専攻。他者の欲望や心理を分析し、自分の利益として搾取する合理主義者。
中野 楓子:ここあん大学2年生。居酒屋「ここきた」でアルバイト中。周囲の欲望を映し増幅させる「無自覚の器」。

【場面設定】
居酒屋「ここきた」のテーブル席。古暮がネガティブな予測を長々と語り、場が重く沈んでいる。

古暮 賢人:だから、バタフライ効果によって明日の株価は暴落し、村の物流は完全に停止するんだ。僕たちはもう終わりだ。絶望の暗闇がすぐそこまで迫っている。

平泉 慧:古暮くん。あなたの発する負のエネルギーが、このテーブル周辺のエントロピーを無駄に増大させているわ。息苦しいから、発声を停止してちょうだい。

(中野楓子がジョッキを載せたお盆を持ってやってくる)

中野 楓子:お待たせしました! 生ビール三つと、名物の筑前煮です。今日も一日、お疲れ様でした!

(楓子が満面の笑みでジョッキを置く。その明るい瞳に見つめられ、古暮の表情から絶望が消え去る)

賢人:ありがとう。なんだか、君の笑顔を見ると、明日の株価なんてどうでもよくなってきたよ。世界はまだ大丈夫な気がする。

:(目を細めて楓子を観察する)興味深い現象ね。古暮くんの放出していた有害な暗いノイズが一瞬で中和されたわ。彼女、まるでアルミン酸ストロンチウムね。

賢人:アルミン酸ストロンチウム?

:ええ。従来の硫化亜鉛の十倍の輝度を持つ蓄光顔料よ。周囲の紫外線という見えないエネルギーを吸収し、暗闇の中で安全な可視光として長期間放出し続ける物質。彼女はまさに、あなたの暗い空気を吸収して、自発光でこの場を照らしているのよ。

エリ:(ジョッキを手に取り、冷笑する)平泉先輩、物理学の観点としては美しいけれど、人間観察としては致命的なエラーを起こしているわね。

:どういう意味かしら。

エリ:彼女はアルミン酸ストロンチウムのような蓄光塗料じゃないわ。光を蓄えて自ら発光するような、明確な自己主張やエネルギー源は、彼女自身の中には一切ないの。

賢人:え? じゃあ、この僕を安心させる圧倒的な明るさは何なんだ。

エリ: ただの全反射よ。彼女は無自覚の器なの。古暮くんの奥底にある「誰かに癒やされたい」という無意識の欲望を、彼女の瞳が鏡のようにそのまま反射して増幅させているだけ。あなたが勝手に、自分の都合の良い光の照り返しを浴びて、目が眩んでいるのよ。

: なるほど。自発光ではなく、入力された欲望の光束を最適化して跳ね返す、極めて高効率なリフレクターというわけね。

楓子: (空いた皿を片付けながら)あの、難しいお話の途中ですみません。追加の唐揚げ、レモン絞っちゃっても大丈夫ですか?

エリ: ほら、古暮くん。あなたのドス黒い欲望を100%全反射した可愛い女神が、きらきらした酸の雨を降らせてくれるって。感謝して浴びなさいよ。

賢人: 浴びないし、唐揚げはソース派なんだ……!

(幕)

作・千早亭小倉

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[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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