【登場人物】
へんてこさん:年齢不詳。無意味の侵入者。本名は「へんてこりん」。
ダダダさん:60歳。不思議おじさん。相手の言葉を無条件に全肯定する完全共感体。
丹波 りん:ケーキ屋「タンバリン」オーナー。理知的な魔女だが、今回は不条理に巻き込まれる。
真木 まき:図書館副館長。メルヘンとミニマリスト。
【場面設定】
昼下がりのケーキ屋「タンバリン」の店先。ダダダさんがベンチに座っている。その前を、へんてこさんが通りかかる。へんてこさんは、目的もなく横歩きをしている。

ダダダさん:(へんてこさんに向かって)なんか面白いこと言ってー。
へんてこさん:(左右で色の違う靴下を見せる)
ダダダさん:ほんとだねー。
へんてこさん:(へんてこさんが立ち止まり、首から下げた用途不明のプラスチック部品を空に向けて掲げる)
ダダダさん:ほんとだねー。
丹波りん:(店のドアを開けて出てくる)ちょっと。店の前で真空空間を作るのはやめてもらえるかしら。ショーケースのケーキが、意味の喪失に耐えきれなくて溶けそうよ。
へんてこさん:(店の看板を見て)たんばりん。へんてこりん。
りん:は? 何よ、いきなりあらわれて、店の名前というか私にケチをつける気?
へんてこさん:(首から下げたプラスチック製品を、たんばりんに見せながら)へんてこりん、名前。たんばりん、名前。
りん:ネームプレートみたいに見せてるけど、何も書いてないじゃない。
真木まき:(絵本の束を胸に抱えて歩いてくるが、何もない平坦な道で豪快につまずき、膝をつく)きゃっ。すってんころりんです。
ダダダさん:ほんとだねー。
りん:ああ、まともな人がやっと来たと思ったら、微妙だわ。
真木まき:あ、りんさん、ダダダさん、へんてこさん、こんにちは。
りん:真木さん、このへんてこおじさんのこと知ってるの?
まき:図書館副館長として、プライバシーにかかわることにはお答えできません。
りん:いや、詳しく知りたくないわよ。じゃ、この人は、へんてこりんって名前なの?
まき:(苦笑いしながら、うなずく)でも、面白いですね。たんばりんさんにへんてこりんさん。うふふ。きゃっ。
(また、まきがすっ転ぶ)
りん:そこであなたが、すってんころりんって、三きょうだいじゃないんだから。だいたい「りん」って何よ。
まき:(スカートの埃を払いながら立ち上がる)「りん」は、江戸時代に流行った、言葉の最後に調子を付けるための言葉ですよ。可愛らしい響きですよね。
りん:私のはれっきとした名前だけど。調子を整えるための飾りじゃないのよ。
まき:涙は。でも、へんてこりんさんの「りん」だって名前かもしれませんよ。どこまでが苗字か教えられませんが。素敵なりんつながりですね。
りん:つながり? 勝手に結びつけないでよ。
へんてこさん:結び? おむすび?
まき:あ、もしかして『おむすびころりん』のお話ですか?
りん:どうしてそうなるのよ。だれも、してないでしょう? どうなってるのよ、今日のここあん村は!
ダダダさん:ほんとだね。
りん:恐ろしい。ダダダさんが、いちばんまともに思える。
まき:(我関せず)私、あの絵本大好きなんです。真っ暗な穴の中に落ちていくのって、妖精さんの国に続くみたいでロマンがありますよね。
ダダダさん:ほんとだねー。
りん:そっちにも反応するんか。もういいわ。あなたたち、三人でどこまでも転がっていきなさいな。
へんてこさん:からん?
まき:ころん?
(へんてこさんが、持っていたプラスチック部品をりんの前でぶらぶらさせる)
りん:私は、3人には入ってないから!
(りんが呆れたように息を吐き、店の中へ戻っていく。残された三人の間には、穏やかで全く意味のない時間が流れている)
(幕)





