25. 極めて遅い風化|化野環古生物学小日記

夜明け間近。昨日の雨が洗い流した空気は、澄み切っている。開け放した窓の薄明かりを感じながら、頭にふと浮かんだ言葉を反芻する。

「窓ガラスは、地質学的な変化が全く起こらない、最も単純な地表のモデルなのですね」

私は改めて窓ガラスに目を向けた。昨日の私は、確かにこのガラス面を、侵食作用から隔絶された「変化しない系」として記述した。しかし、その認識は、人間の時間スケールに囚われた、解像度の低い見方だったのかもしれない。

思考のタイムスケールを、数百年、数万年へと引き伸ばしてみる。この建物が耐用年数を終え、解体され、あるいは放棄された未来。このガラスは破砕され、砕屑物として土壌に混入するだろう。

ガラスの主成分は、二酸化ケイ素(SiO₂)。これは、地殻を構成する主要な造岩鉱物である石英(Quartz)とほぼ同じ化学組成を持つ。花崗岩が風化する際、長石や雲母は化学変化を起こし粘土鉱物へと変質していくが、石英は極めて安定しているため、その姿を保ったまま砂となり、堆積物中に濃集していく。

そう考えると、この窓ガラスは「変化しない」のではない。むしろ、極めて風化に強い「未来の砂粒」なのだ。未来の地層の中で、人工的に精製された純度の高い石英砂として、極めて長い時間を生き延びる、未来の堆積岩の構成要素。

「変化しない」という評価は、多くの場合、観測者の時間スケールの短さに起因する。このガラスもまた、地質学的時間という壮大な流れの中では、極めてゆっくりとではあるが、確実に風化し、変質していくプロセスの中にいる。ただ、その速度が、人間のライフスパンと同期していないだけだ。

化野環「古生物学小日記」
化野環「古生物学小日記」(1〜20話)
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[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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