箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「弱論争」

休館日。静寂に包まれたここあん村立図書館内。2階フロアの隅にある作業机は、除籍された本の山が地層のように連なり、さながら発掘現場のようだった。年に一度のブックリサイクル市に向け、役目を終えた大量の蔵書を来場者に気持ちよく譲り渡すための、地道...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「都合の悪いもの」

巨大塔「ペンタ」の屋外避難階段は、いつ来ても冷たい風が吹き抜けている。五角形の石造りの壁に背を寄せ、ここあん高校で美術科を担当する月石みづきは踊り場の鉄柵越しに霧をまとった山並みを眺めていた。眼下には、小名地区の民家の屋根が小さく広がる。そ...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「領分」

晩秋の夕暮れ、断崖の狭間に建つ木造の温泉宿「ジャッポーン」の番台には、深い霧とともにひんやりとした山の冷気が吹き込んでいた。脱衣所の奥からは、硫黄の混じった重い湯気が漂っている。ここあん大学の学長航三津子は、番台のカウンターで、下足箱の木札...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「おはぎはんの正義」

梅雨の晴れ間というのは、夏の始まりを告げる気まぐれな祝祭だ。アスファルトから陽炎が立ちのぼり、昨日までの雨の名残をすっかり乾かしてしまう。風は湿り気をたっぷりと含んでねばつき、網戸を通り抜けては、部屋の中の空気とゆるやかに混ざり合った。台所...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭スケッチ「もうひとつのしゑや」

このスケッチの前のできごと・・・それでは、本編を。【登場人物】氷上 静:ここあん湖畔のブックカフェ「シズカ」のオーナー。論理的な講釈が好きで話が長くなりやすい。中野 小春:カフェ共同オーナー。海野みかん:ここあん高校特別非常勤講師。ヴィネッ...