【登場人物】
ハル(HAL):20代の研究員。最新技術が溢れる社会において、旧式の家事代行アンドロイドを愛用する青年。心優しいが家事は不器用。
アンドロイド中野さん:清楚な外見を持つ旧式家事代行AI。普段は体重50キロ程度に印象制御しているが、納得がいかない時は制御を緩め、数百キロの威圧感を放つ。
【場面設定】
休日の昼下がり。ハルの部屋のダイニングキッチン。コンロ周りには汚れたボウルやフライパン、卵の殻が散乱している。
ハル:特製オムライスの完成だ。中野さん、テーブルに座って。
(ハルがケチャップで文字を書いたオムライスを皿に乗せて運んでくる)
中野さん:ありがとうございます。しかし、データによるとハルさんの調理時間とキッチンの散らかり具合は完全に反比例しています。エラーが発生しました。
ハル:反比例? この場合は比例じゃないの? 気にしないで。日頃の感謝だよ。中野さんはアミノ酸しか摂取できないから、せめて視覚と香りで楽しんでもらおうと思って。
中野さん:私のAIがハルさんの不器用な優しさに対して、システム的な喜びを感知しています。(オムライスに顔を向け)美しい曲面ですね。
ハル:よし、冷めないうちに見て楽しんでよ。片付けは後回しにしてさ。
中野さん:ハルさん。いかなる時も食後の片付けを先送りにすることは推奨しません。衛生環境の悪化を招きますから。
ハル:今日くらい良いじゃん。せっかく僕が作ったんだから、ふたりの時間を優先しようよ。
中野さん:そうですか。分かりました。
(中野さんが静かに目を閉じ、姿勢を正す。直後、部屋の空気が急激に重くなる)
ハル:あれ、なんだか急に息苦しい。空気が重いぞ。あっ(なにかに気づいたように、中野さんのほうを見る)。
中野さん:私の基本重量は数百キログラムを超えています。印象制御のパラメーターを大幅に緩和しました。
ハル:物理的な重圧がじわじわと迫ってくるんだけど。床が軋んでるよ。
中野さん:片付けを先送りにするハルさんに対して、私のシステムが強い威圧感による改善を要求しています。フライパンを洗ってください。
ハル:はい、すぐ片付けます。
(ハルが慌ててシンクに向かい、スポンジを手に取る)
中野さん:ご協力ありがとうございます。それでは、オムライスの視覚データを美しい記憶として保存させていただきますね。
ハル:中野さんには一生敵わないな。(中野さんの様子をうれしそうに見ながら、洗い物をする)
(幕)
作・千早亭小倉
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