箱庭コント342「ショパンのリボン」

【登場人物】
おはぎはん
:22歳。フリーライター兼劇団員。泥跳ねのスニーカーと大荷物を抱え、現場取材と空腹に追われる生活感の塊。相手の懐へ遠慮なく踏み込む。
ショパン:ここあん高校に通う16歳。仕立てのよい上着を着た小太りの少年。物事の調和や秩序を愛するが、どこか世間擦れしていない。

【場面設定】
ケーキ屋「タンバリン」の店先にある木製ベンチ。晩秋の夕暮れ。冷え込む空気の中、向かいの街灯が白く灯り始めている。

ショパン:(ぶつぶつ)ううん、どうしてもうまくいかないな。

(ショパンが、膝の上にケーキ箱を置き、解かれた細いリボンを両手で持ち、交差させようとしては指を止める)

おはぎはん:(ショパンの手元を覗き込む)何をしとるん、さっきから。

ショパン:結び直しているんだよ。家に着くまで待てなくて、ベンチでひとつ食べてしまったからね。

おはぎはん:それなら、すぐそこの扉開けて(親指で背後のケーキ屋のガラス戸を指す)、丹波りんに縛り直してもらえばええやない。店の人に頼んだら一瞬やろ。

ショパン:それはできない相談だよ。誘惑に負けて開けたのは僕の過失だ。店主の手を煩わせるのは筋が通らないし、自らの手で元の美しい状態に戻してこそ完結するんだ。

おはぎはん:「店主」? 格好つけてんと、さっさと店に入ったらええ。この、(やや芝居がかり)「寒風吹きすさぶ」中で何をつまらん意地張っとるんや。

(おはぎはんが、冷えた指先を上着のポケットに突っ込み、肩をすぼめる)

ショパン:意地じゃない、筋道さ。ただ、気温のせいで指先の感覚が鈍くなってて、輪の大きさが揃わないんだ。

おはぎはん:ああ、もう、見てられへん。貸してみい!

(おはぎはんが無遠慮にショパンの前に両手を割り込ませる)

ショパン:あ、勝手に触らないでくれ。僕なりの手順があるんだ。

(ショパン、箱を抱え込もうとするが、おはぎはんの勢いに押されて身を引く)

おはぎはん:ええから、ここに人差し指をぐっと当てて!

(おはぎはんが、ショパンの手首を掴み、その指先をリボンの交差点に強く押し当てる)

ショパン:ちょっと、力加減というものがあるだろう。

おはぎはん:緩めんように体重乗せとき。そこさえ押さえといてくれたら、あとはこっちでぎゅっと締めるから。

(身を乗り出し、太い結び目を一気に作り上げる)

ショパン:(おはぎはんに向かって)近いよ。それに箱の横が少し凹んでいるじゃないか。

(互いの鼻先に触れそうな距離に、相手の顔がある)

おはぎはん:よし、縛れた!

(リボンの輪を指でピンと弾き、満足そうに腕を組む)

ショパン:右側の輪が大きすぎるよ。結び目も中央から二つ分くらい右に寄っている。

(ショパンが、歪んだリボンを見て、眉をひそめながら指を離す。同時におはぎはんのお腹が「ぐうううっ」と鳴る)

おはぎはん:失礼。せやけどな、箱が開かんと持ち帰れたらそれで十分やろ。飾りなんて胃袋には入らんねんから。

ショパン:美意識の問題だよ。箱を開ける前の期待値も計算に含まれているんだ。

おはぎはん:はいはい、屁理屈はええから。ほら、これ食べ。

(鞄の底から銀紙に包まれた平たい焼き菓子を取り出し、ショパンの膝の上に置く)

ショパン:僕は空腹じゃないよ。さっきケーキを食べたばかりだと言ったはずだ。

(膝の上の包みを指先で押し戻そうとする)

おはぎはん:半分こや。寒空の下で一緒に半分こしたら、別腹でなんぼでも入るわ。ほら、割って!

(包みを破いて真っ二つにし、大きい方を無理やりショパンの手のひらに握らせる)

ショパン:半分こなら入るだなんて、どんな栄養学の法則だい。

おはぎはん:生活の知恵や。ほなな、風邪ひかんうちに早よ帰りや。

(おはぎはん、鞄の紐を肩にかけ、大股で暮れかけた通りへと歩き出す。遠ざかるその背中を見送り、手元の焼き菓子を小さく一口かじるショパン)

ショパン:なんなんだよ、あの人は。全然、筋が通ってない。大人なのに。(もう片方の手で、右に大きく曲がったリボンの結び目をこする)うわっ、固い。ほどけないよ。

おはぎはん:(遠くから、おはぎはんの声)はさみ、はさみ使いや、意地張らんとな。

ショパン:(諦観めいたため息)やっぱり、全然筋が通ってない。(結び目をもう一度こする)

(幕)

作・千早亭小倉


おはぎはん|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:おはぎはん(本名は「宏原こはぎ」)年齢・性別: 22歳・女性肩書: ライター(現場主義のジャーナリスト)、劇団「かもかも」女優「こんなん、面白くないやん!」 と、相手の懐に土足で踏み込む直線的な関西弁が特徴の若手ライター。赤毛のベリー…
ショパン|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:ショパン年齢・性別:十代後半肩書:ここあん高校 B組 生徒裕福な家庭で育った、小太りでおっとりとした少年です。世俗の流行には興味を示さず、世界のあらゆる事象をクラシック音楽の理論に翻訳して解釈する特異な感性の持ち主です。ネット上の極端…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *引用の範囲を超える無断転載・複製を禁じます。 Copyright © 2025-2026 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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