【登場人物】
徒然士:文字の造形や言葉の起源に過剰なこだわりを持つ文芸評論家。
菜箸かな:落ち着いた気品のある翻訳家。竹ぼうきで落ち葉を掃いている。
【場面設定】
秋の午後。きさらぎタウンのイチョウ並木。黄色い落ち葉が一面に散らばっている。

(菜箸かなが竹ぼうきを手に、サッサと軽快に落ち葉を掃いている。 徒然士の姿を目に止め、声をかける)
菜箸かな:フフフ、徒然士先生、今日はこちらまでお出かけ?
(通りかかった徒然士が、その場でピタリと足を止める)
徒然士:いま、何と?
かな:お出かけですか?
徒然士:ひらめいた。かな君、いま君は、楽しげに「フフフ」と笑い、続けて「お出かけですか?」と優しく私に問うた。
かな:それが何か?
徒然士:見よ、その足元を!
(かながサッと竹ぼうきを動かすと、足元の黄色いイチョウの葉が、カサリと音を立ててクルリと何枚もひっくり返る)
徒然士:それだ! 見たかね。いま、イチョウの葉が裏返った瞬間を!
かな:ええ。掃いたらひっくり返るくらい当たり前ですよ。もっとひっくり返しますか?
徒然士:いや、十分だ。文字の天地反転だ! 君が口にした「フ」というカタカナ文字が地面に落ち、ほうきで掃いた拍子に上下逆にひっくり返ったと考えてみたまえ。「フ」を裏返せば、そのまま「レ」になるではないか!
(かな、何かを思い浮かべている表情)
かな:あら、本当ですね。上下を反転させると、たしかに「レ」になりますね。
徒然士:だろう? 赤塚不二夫が生み出した名物キャラクターのひとり、あの黄色い着物を着たおじさんは、散らばった文字を竹ぼうきで掃いて裏返していたのだ! つまり「レレレのおじさん」の真の姿は、この道端で優雅に掃き掃除をしながら笑う、君のような「フフフのおばさん」だったのだよ!
(徒然士が得意満面に胸を張る。かなは竹ぼうきの手を止め、静かに徒然士を見る)
かな:おばさんじゃないわよ。
徒然士:えっ、あっ、いや。
かな:別にいいけど。
(かなは何事もなかったかのように、「フフフのフ〜」と言いながら、落ち葉掃きを再開する)
徒然士:ぬうっ。世紀の大発見をしたはずなのに、何ゆえか満たされない……。
(幕)
作・千早亭小倉




