【登場人物】
はるひこ:長男、10歳。国語辞典の例文を読み比べるのが趣味。
なつひこ:次男、5歳。レンゲを並べることにこだわりがある。
まさよし:父親。弁護士。基本的に不機嫌。
みちこ:母親で専業主婦。いつもやる気がなく、悲観的。
【場面設定】
休日の居間。家族がそれぞれ好きに過ごしている。

なつひこ:(床でレンゲを線路の枕木のように並べている)らっら、らっら。
まさよし:ぽんちょは、うまいこと等間隔に並べるものだな。
はるひこ:お父さん、「とうかんかく」ってなに? 国語辞典にのってないよ。
まさよし:おんぱりそは、「等間隔」も知らないのか。木を1メートル間隔で植えたりするのが、等間隔だ。
はるひこ:それなら、「レンゲを等間隔に植えている」って言う?
まさよし:言うわけないだろう。レンゲは木ではない、陶器だ。
はるひこ:「トーキ」? (国語辞典で調べる)これかな? 例文、「陶器でできた植木鉢」って書いてある。
まさよし:その陶器だ。うちのレンゲはプラスチックではない、陶器でできているのだ。
はるひこ:レンゲは植えないのに、陶器は植木って書いてあるよ。
まさよし:おんぱりそ、お前が言っていることは、根っこから間違ってる。
はるひこ:根っこ? (ひとりごと)やっぱり、木なのかな? (まさよしに向かって)なっちゃんのレンゲから芽が出たら、スープが飲みづらくなるね。
まさよし:(新聞をめくる)陶器からは芽は出ない。
はるひこ:(辞典をめくる)「芽」、「芽が出る」……「才能の芽が出る」。お母さんの才能って何?
みちこ:(ため息をつく)息を吸って吐くことよ。はるは、少し静かにしてて。
なつひこ:(レンゲを手に突然立ち上がり、廊下へ走っていく)だっ、だっ!
はるひこ:あ、木が走った(国語辞典を床に置き、なつひこの後を追う)
まさよし:(新聞から目を離さず)木は走らない。だから、レンゲは木ではないんだ。
(幕)
作・千早亭小倉



