21. 花壇の大量絶滅|化野環古生物学小日記

10月のある日。大学の正門をくぐると、職員の方々が花壇の植え替え作業をしていた。まだ鮮やかな花を咲かせているベゴニアやマリーゴールドが、根こそぎ引き抜かれ、台車に無造作に積まれていく。

これは、極めて人工的な「大量絶滅イベント」だ。 この花壇という小規模な生態系にとって、霜が降りたわけでも、土壌が劣化したわけでもない。絶滅の引き金となったのは、昨日、誰かが壁の暦を一枚めくった、というただそれだけの事実。暦という抽象的な人間の取り決めが、ここでは小惑星の衝突と同等の、抗いようのない環境激変トリガーとして機能している。

自然界における生態遷移(ecological succession)は、もっと時間をかけた、複雑なプロセスだ。裸地にまず地衣類やコケ類が定着し、土壌を形成し、やがて草本、低木、そして高木へと、何十年、何百年という時間をかけて群落が移り変わっていく。

しかし、この花壇では、そのプロセスは完全に無視される。絶滅の後、即座に、人間の美意識によって選抜された「新たな種」――この場合はパンジーやビオラ――が、空白となったニッチ(生態的地位)に一斉に導入される。それは遷移ではなく、システムの強制的なリセットだ。

整然と植えられた秋の花々が、澄んだ空気の中で揺れている。この美しさは、周期的に繰り返される、穏やかで徹底的な絶滅の上に成り立っている。

化野環「古生物学小日記」
化野環「古生物学小日記」(1〜20話)
思考の断片は、痕跡を残さず消える軟体動物のように揮発性が高い。この記録は、結論という「骨格」に至る前の、問いや連想という「軟体部」を、バージェス頁岩のように保存しようとする私的な地層形成の実験である。日常の些事や人間社会の営みは、数億年の地…
化野環「古生物学小日記」(21話以降)
21〜30話21. 花壇の大量絶滅  大学の花壇で植物が植え替えられている。これは暦というトリガーによる人工的な大量絶滅イベントだ。自然界のゆっくりとした遷移とは異なり、人間の美意識によって選ばれた種が即座に導入され、システムが強制リセット…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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