【登場人物】
パパ:ここあん高校生(元文芸部)。別名、ゴッドファーザー。対象に短く断定的な「名前」を与える設定派。
イチギョウ:ここあん高校生(元文芸部)。別名、名言スナイパー。会話に唐突に「金言」をねじ込む哲学派。
タッピツ:ここあん高校生(元文芸部)。別名、手書き天女。会話の流れより「文字の美しさ」を重視するビジュアル派。
【場面設定】
ペンタ下層階の空き教室。ホワイトボードの前に三人が立っている。ボードは真っ白に拭き上げられている。

イチギョウ:この真っ白なホワイトボードとは、無限の可能性という名の暴力だ。
パパ:いいだろう。ならば、このホワイトボードを「沈黙のテロリスト」と名付けよう。
タッピツ:ちょっと待って。その名前、私がマーカーで書くわ。(ボードにゆっくりと文字を書き始める)……ダメね。
パパ:どうした。俺の命名に不満でもあるのか。
タッピツ:「沈」のさんずいが、なんだか乾いて見えるのよ。これじゃあ、テロリストというより、ただのメソメソ泣いてる迷子よ。
イチギョウ:迷うことは、真実への遠回りな近道である。
パパ:よし。ならば、この乾いたさんずいを「砂漠の羅針盤」と名付けよう。
タッピツ:名前を変えられても困るの。私は「沈黙」という文字の完璧なプロポーションを探しているんだから。
パパ:俺が名付けた瞬間に、その対象は絶対的な意味を持つ。文字の形など、ただのパッケージだ。
イチギョウ:外見を飾る者は、内なる空虚を隠しているに過ぎない。
タッピツ:空虚で結構よ。マーカーの滑りの中で生まれる「はね」と「はらい」が美しければ、中身が空っぽでも芸術として成立するわ。投稿原稿だって、美しい字で書かれていればいるほど、そして、絶妙な字間、行間で書かれていればいるほど、審査員の胸を打つし、登場人物のセリフも重みを増し、行動も輝いて見えるのよ。ねえ、この「黙」の右側の絶妙なバランスを見なさい。
イチギョウ:えーい、話が長い! 20字以上の言葉にドラマ性などない。
パパ:それに、タッピツの「黙」の字だが、「犬」の部分だけ立ってないか? よし、これを「吠えない狂犬」と名付けよう。
イチギョウ:狂気とは、理解されない天才の別名だ。
タッピツ:犬じゃないわよ! イレーザー貸して。最初から書き直すわ。
(タッピツがボードの文字をすべて消す。再び、真っ白な空間に戻る)
パパ:……完全に消えたな。よし、この初期化された空間を「白紙のレクイエム」と名付けよう。
イチギョウ:終わりは常に、新しい始まりを孕んでいる。
タッピツ:だから待ってってば。次こそ完璧な「白」を書いてみせるから。
(幕)
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