箱庭コント「ボランティア、太陽の法則」

【登場人物】
中野 楓子:ボランティアに初参加。村長の仕切りに少々萎縮気味。大学の先輩ハルに憧れを抱いている。
恋流波 陽(ハル):ボランティアに一時期没頭した父親の幻を追いかけて参加。以前、静と付き合いかけたことがある(関係は自然消滅)。
氷上 静:哲学者。集団の力学を冷徹に分析する。
矢尾 リリカ:全体を冷笑的に俯瞰する観測者。
緑野 翠:ここあん村村長。ボランティアを「行政の完璧なショー」として支配しようとする。「てへっ」が決め台詞。
矢尾 玲子:リリカの母。圧倒的な自己愛で、現場の権力勾配を粉砕するジョーカー。自分のことを「ステキさん」と呼ぶ。
武功:路上の詩人(作家)。偽善を憎む男。

【場面設定】 ここあん湖畔の広場。ボランティアによる「花壇の植え替え計画」の現場。 色とりどりの花の苗が並ぶ中、翠が行政トップとしての権力を振りかざし、一同を仕切っている。

緑野 翠:ストップ! 中野さん、中野楓子ちゃん、スコップの角度が非効率よ。恋流波くん、ハルくん、苗の間隔をミリ単位で揃えなさい。この植樹ボランティアは、我がここあん村の「完璧な復興と連帯」をアピールする重要な行政プロセスなの。笑顔と統制を忘れないで!

中野 楓子:(手を止め、うつむき加減で)なんだか、息が詰まります。……私、ボランティアって言葉、本当はあまり好きじゃないんです。私を置いて東北に行った母親を思い出すから。村長に「楓子ちゃん」なんて呼ばれると、余計にです。ハル先輩は、大丈夫ですか?

ハル:楓子ちゃん、僕も親父がどんな気持ちでボランティアしてたのか、ちょっと知りたいって思って来たけど。純粋な善意なんて、組織になった瞬間に権力のピラミッドに変換されちゃうんだな。

楓子:誰かのためじゃなくて、結局は上の人の「完璧なショー」を成功させるための駒みたいですね。

ハル:ボランティアって何なんですかね、静さん。

氷上 静:(少々、突き放して)私に同意を求めないでちょうだい、恋流波くん。(やや、きつさを和らげて)でも、そうね。大義名分を盾にしたヒエラルキーほど、醜悪で強固なものはないから。村長のあの姿は、承認欲求を持て余した権力者の典型的な末路よ。

矢尾 リリカ:村長のパフォーマンスにタダ働きで付き合わされるなんて、馬鹿みたい。タイパ以前に、ソンチョパ問題だわ。

ハル:リリカちゃん、それ、村長パフォーマンスの略だよね。絶対、はやらないから。

リリカ:(静の口調を真似て)恋流波君、そういうところよ、今のあなたが悩めるドンファンになったのは。

ハル:似ている。静さんは、そんなこと言わないと思うけど、胸が。

楓子:(ハルを気遣う)ハル先輩、何かあったんですか?

ハル:楓子ちゃん、気にしないで。(独り言)先が思いやられる。

:そこ、口を動かさずに、手を動かす! テヘじゃなく、手をね!

(そこへ、パステルカラーのエプロンを優雅に着こなした矢尾玲子が現れ、一同の前に立つ)

矢尾 玲子:あら、みなさん! ステキな汗をかいていらっしゃるわね!

(翠を完全に無視し、玲子が花壇の前に立つ)

:ちょっと、あなた。こっちは関係者以外立ち入り禁止……。

玲子:ああ、この色鮮やかなお花たち! まるでステキさんの美しさを際立たせるための、フラワースタンドのようね。

(リリカが作業の手を止め、母・玲子と村長・翠のやり取りを興味深げに見ている)

:話を聞きなさい! ボランティアの現場を遊び場と勘違いしないでちょうだい! 私たちは今、他者を救済するという崇高な……。

玲子:他者の救済? どこのお野菜? やだわ、ステキさんがここに来たのはね、おろしたてのパステルカラーのエプロンをまとった自分が「最高にステキ」だからよ! ボランティアなんて、ステキさんを輝かせるための極上のアクセサリーに決まってるじゃない!

ハル:え……? アクセサリー? それって、普通に暴言のような。

玲子:ハル君、楓子ちゃん、お二人から漂うお似合い感で、ステキさんもほら、キラキラでしょう?

ハル:でしょう……って言われても。(困り顔で楓子ではなく静を見るが、静は呆れたように視線を逸らす)

楓子:玲子さん、誰かのためにやるものじゃないんですか?

玲子:楓子ちゃん、そんなの自分のために決まっているじゃない。誰かを救う自分に酔うより、最初から自分が輝いてる方が健全でしょう?

:(軽くため息)利他主義の皮を剥ぎ取ったら、純度100パーセントの利己主義が現れた。

リリカ:でも、今日のママの言葉、珍しく清々しく響くわね。緑野村長の「みんなのために」って言葉より、よっぽど嘘がない。

武功:(それまでベンチに寝そべっていた武功が立ち上がり、低く濁った声で笑い出す)ははっ、こりゃ傑作だ。

:武功さん? 何がおかしいの!

武功:大義名分を並べて他人をコントロールしようとする村長より、自分の欲望に底抜けに忠実なそこの奥さんの方が、よっぽど信用できるってことさ。あんたからは、誰かを救うだの何だのと、安い匂いしか漂ってこねえ。それに比べりゃ、エプロンの奥さんは、なかなかお目にかかれない怪物ボランティアだぜ。

玲子:あら、やだ。ステキさん、路上の詩人さんに褒められちゃったわ!

リリカ:ママ、「怪物」って言われても喜んでる。

:冗談じゃないわ! 行政のトップとして、(玲子に向かい)あなたも、(武功に向かい)あなたも、現場を混乱させる人間を許すわけには断じて……!

玲子:(翠の言葉を遮り、優雅に微笑む)ねえ、そこのあなた。緑色の服といっしょに、眉間にもシワが寄ってて、全然ステキじゃないわ。ステキさんの輝きで生まれる日陰はとっても涼しくてよ? あなたはそこの日陰で、泥だらけのスコップでも洗ってきてくださる?

:はあ!? 私が、道具洗いを!? 私は村長よ、緑野翠よ!

玲子:シー。ステキじゃない人は、私の日陰がお似合いなのよ。ほら、早く!

リリカ:(小さく息を吐いて)物理法則を無視した日陰ね。

楓子:でも、日陰が見えます。

ハル:見えるね、確かに。

(玲子の圧倒的な圧力とペースに押され、翠は反射的にタワシとバケツを手に取り、裏の洗い場へと追いやられる)

ハル:あ、村長が日陰に吸い寄せられて行く。

楓子:でも、このあとは誰が指示を出すんですか、ハル先輩?

玲子:指示? 楓子ちゃん、そんなものいらないわ。ただ、ステキな私がここにいる。それだけで、この空間の美しさは完成しているのよ。

:なるほど。絶対的な太陽が存在すれば、もはや運行のルールは必要ないというわけね。

リリカ:静さんまで、ママに溶かされ始めてる。私には、完全に現場のシステムをバグらせたようにしか思えないけど。

(裏の洗い場から、ブツブツ文句を言う翠の声が聞こえる)

:なんなのよ、あの上から目線! 私がこんな泥汚れを……(ゴシゴシと力を込める)……ん?

(翠の動きが、次第に規則的で力強くなっていく)

:ブラシの摩擦と、金属が応える感触。私の手の動きが、ダイレクトに「輝き」という成果に直結する……。議会での不毛な答弁にはない、この圧倒的な即効性と支配感! 私、行政のトップとして指示を出すより、こっちの方が向いてるかも! てへっ!

(翠が恍惚とした表情で、猛烈なスピードでスコップをピカピカに磨き上げ始める)

ハル:村長が、スコップ磨きマシーンになっちゃいましたよ。

:組織のヒエラルキーが、理不尽な自己愛によって解体され、結果として現場の適材適所が完了したようね。

リリカ:偽善者のトップが泥を落として、中身が空っぽの太陽が現場を回してる。不条理劇としては完璧な仕上がりね。

楓子:(ピカピカのスコップを嬉しそうに眺めて)でも……村長が最初に言ってた「笑顔と統制」が別の形で達成されましたね。この凸凹の「統制」、なんでかちょっと気持ちいいかも。

ハル:(翠を真似て)てへっ。

リリカ:似てないから。

(遠くから、翠の「似てないから」も聞こえてくる)

(幕)

作・千早亭小倉

[コント台本・小説450本以上]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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