【登場人物】
月読 リノ:ここあん高校国語科教師。文芸部顧問。
額 フチ子:音巴里荘に暮らす画家。
【場面設定】
家電量販店「ここあん電気」のマッサージチェア体験コーナーあたり。

(マッサージチェアの強烈な首すじ揉み機能が作動し、月読リノの体が前傾する)
月読リノ:あがっ!
(リノのジャージの首元あたりから丸いものが転がり落ち、通りかかった額フチ子の前をコロコロと横切る)
額フチ子:首があああ! 首がもげたわああ!
(フチ子、ショックのあまり白目を剥いて倒れ込み、口から大量の赤い液体を激しく吹き出す)
リノ:(床に伏せたまま落ち着いた声で)叫びながらトマトジュース飲むのやめてもらえますか。服にはねるので。
フチ子:(口元を赤く染めながら)あんた首がないのよ! 胴体だけで喋らないで! こわい!
リノ:首はここにあります。(ジャージの乱れを整える)ジャージのフードが大きすぎて、頭がすっぽり服の中に引っ込んだだけです。床に転がってるのは、さっき買ったキャベツです。
フチ子:キャベツ? え、じゃあ何、あたいはキャベツを見て勝手に絶望してトマトジュースを吹き散らかしたってこと?
調理家電音声:ピロン。新鮮なキャベツとトマトを検知しました。
(隣の調理家具売り場から声がする)
調理家電音声:これより「キャベツのトマト煮」の調理を実演いたします。
フチ子:あたいの絶望と惨劇を勝手にレシピに組み込むんじゃないわよ!
リノ:ちょうどお腹がすいてたので、そのまま美味しく煮込んでおいてください。
フチ子:人が噴いたジュースを使った料理を、よく食べる気になるわね。
調理家電音声:それもそうです。きれいなトマトジュースを提供してください。
フチ子:あなたに言ってない!
リノ:きれいなのをね。よしなに。
(幕)
作・千早亭小倉




