掌編・ものがたり
氷だった夢と水だった記憶 作・氷上冬子
(あらすじ)夏は水として月を映し、冬は氷として硬く輝く存在の独白。季節が巡り形状が変わるたびに記憶を失うが、それでもなお、失われた「もうひとりの自分」の感触に焦がれ続ける、循環と実存の物語。
なーんにもない国と、まいごのパンツ 作・おはぎはん
(あらすじ)色も音もない真っ白な世界に、一枚の「パンツ」が舞い降りてきます。住人たちはそれを帽子だ、船だと推測して大騒ぎします。やがてパンツは飛び去り、世界には「喪失感」と「名前」が残されるのです。おはぎはん、渾身の一作。
トットとバナナの味のなぞ 作・茜
(あらすじ)スクリーントーンの点であるトットが暮らす画用紙の世界。ある日、「大きなカッター」によって世界が切り裂かれ、日常が崩壊する。絶望する彼らの前に巨大な「えんぴつ」が現れ、ある不思議な言葉を書き残していく。
名前を食べるオオカミ 作・真田まる
(あらすじ)生まれつき心臓の音がしない少女リリは、自分が消えてしまう恐怖から、森に住む「名前を食べるオオカミ」の元へ向かいます。オオカミは名前を食べる代償として、彼女の人生の物語と、音のしない心臓そのものを要求します。
灰色の国のツミ 作・鴨下栞
(あらすじ)「慰めより問いを」など、物語を冷徹に管理する「静の十戒」が支配する世界。悲劇の部品として生み出された少女ツミに対し、十戒たちは情を抱いて救いの手を差し伸べるが、少女はその安易な奇跡(ご都合主義)を拒絶し、自らの意志で過酷な物語を歩みだす。
ショートショート
ハッシュタグ「おれたちのヒカル」 作・恋流波東彦
(あらすじ)長年続く漫画『僕はスター!』の主人公・大河内ヒカルは、誰にも相手にされない孤独な空回りキャラとして親しまれていました。読者のミヤザキも、彼の痛々しい滑稽さを心の支えにしています。ところがある日、ヒカルの才能を絶賛する仲間が現れ、物語は彼が報われる展開へと舵を切ります。愛する「孤独なヒカル」が失われる危機に直面した読者の苦悩と、予想外の方向へ転がりだす物語を描いたコメディです。
エッセー・評論
水底で濾過される太陽――エリュアールの不在と共鳴 著・向原佐和
(あらすじ)図書館で偶然手にした一冊の本に、語り手は旧知の友・氷上静の姿を見出します。作中では、孤独と知性の深海に生きる静の心を、若き太陽のような青年・ハルの熱量が、水底で濾過された月光のように優しく解きほぐしていきます。しかし、光をもたらす側のハルも危うさと喪失の予感を抱えていました。エリュアールの詩を重ね合わせ、二人の関係の行方と静かな余韻を描き出すエッセイです。


