箱庭コント239「AI女優は演歌の夢を見るか?」

【登場人物】
古河 モン太郎:編集プロダクション「ぽんちょ」の社長。元演歌歌手で、思いつきと勢いで事業を動かそうとする豪快な小心者。
赤井 葵:劇団「かもかも」所属の女優。プロ意識が高く、感情表現がストレートな関西人。
南花 おちば:劇団「かもかも」所属の女優。「ちいにゃん」という、ゆるキャラの中の人でもあり、独自のメソッドを持つ。
鶴亀 昌子:編集プロダクション「ぽんちょ」の社員。超人的なタフさで仕事をこなす、冷静沈着な女性。

【場面設定】
平日の午後。ココアン村の雑居ビルにある編集プロダクション「ぽんちょ」の芸能部オフィス。リモートワークが中心となり、がらんとしている。
社長の古河モン太郎が、数少ない出社組である赤井葵と南花おちばを前に、熱弁を振るっている。
(オフィスにはモン太郎の趣味なのか、小さなスピーカーから微かに演歌が流れている)

古河モン太郎:いいか、二人とも! 時代はエーアーなんだよ、エーアー! 海の向こうのハリウッドじゃ、エーアー女優がスター様の仕事を奪ってるって話だ! これはビッグウェーブだぞ!

赤井葵:はあ……社長、また朝のワイドショー観て変な影響されたんとちゃいます? うちらには関係ない話ですよ。

モン太郎:関係なくない! むしろ、我々のような中小プロダクションにこそ、千載一遇のチャンスなんだ! そこでだ! 葵! お前を、我が社初の「エーアー女優」として売り出す!

:(持っていた台本を取り落としそうになりながら)はああぁぁ!? 社長、頭にウニでも詰まってますのん!? うち、人間ですけど!

モン太郎:分かってるわい! 人間だからいいんだろうが! 本物のエーアーなんて開発したら金がいくらあっても足りん! だが、お前がエーアーの「フリ」をすれば、開発費はタダ! ギャラはハリウッド級! これぞ、我が社が誇る錬金術……名付けて「なんちゃってエーアー大作戦」だ!

:作戦名がダサすぎますわ! というか、そんなもん一発でバレるに決まってるやないですか! 喋ったらバレる! 動いたらバレる! なんなら、息しただけでバレますよ!

南花おちば:(真剣な顔で腕を組み)……いえ、葵さん。社長のおっしゃること、一理あります。要は、役作り(メソッド)の問題です。

:おちばさんまで!? 正気か!?

おちば:AIになりきる……それはつまり、人間的な感情を極限まで削ぎ落とし、プログラムされた動きを完璧に遂行するということ。これは、ちいにゃんが子供たちの前で絶対に中の人の感情を見せない、あのプロ意識と通じるものがあります。

モン太郎:そうだ、そうだ! おちばくんは話が分かる! 役者だろうが、葵! 気合と根性でエーアーになりきってみせろ! エーアーの気持ちになれ!

:AIに気持ちなんかないでしょ! だいたい、どないしてなりきれ言うんですか!

おちば:(すっと立ち上がり)まず、瞬きを減らします。そして関節を意識した、カクカクとした動き。いわゆる「ポッピン」ですね。感情を表現する際は、顔ではなく、指先の微細な振動で表現するんです。喜びは1秒間に5回の振動、悲しみは……そう、3回の、ゆっくりとした震え。これが「絶望の肉球」の応用です。

:また肉球メソッド!? やから、AIに肉球はついてへんのよ!

モン太郎:よし、葵! ちょっとやってみろ! そこの台本の「愛してるわ、タケシ」ってセリフを、エーアーっぽく言ってみろ!

:(やけくそ気味に)……分かりましたよ、やればええんでしょ! (葵は一度目をつぶり、カッと見開くと、ぎこちなく首を動かす)

:(ロボットのような声色で)ア……イ……シ……テ……ル……ワ……タ……ケ……シ。 (言い終わると同時に、おちばに教わった「喜びの振動」として、両手をブルブルと高速で震わせる)

モン太郎:……違う! 全然違う! なんだその、感電した小動物みたいな動きは! もっとこう、魂がない感じだ! 心がこもってない感じ!

:心込めへんかったら、ただの棒読みになるだけですやんか!

モン太郎:そうだ、それだ! いや、違うな……。もっとこう、演歌でいうところの「こぶし」がない、平坦な歌い方だ! 分かるか!?

(モン太郎が身振り手振りを交えて熱弁していると、オフィスのドアが静かに開く)

鶴亀昌子:お疲れ様です。

(涼しい顔の鶴亀昌子)

モン太郎:お、おお、かめちゃん! 出社か!

昌子:サンテツです。

モン太郎:すごろくゲームか何かか?

おちば:社長、それ、3日徹夜! 昌子さん、3日徹夜のサンテツです。

昌子:(モン太郎と、ブルブル震えたまま固まっている葵、真剣な顔のおちばを順に見渡し)……あら、皆さんお揃いで。……まさかそれって、AI女優の真似か何かですか?

葵・おちば:(ギクッとして動きを止める)

モン太郎:なっ、なんで分かったんだ!?

昌子:(全く表情を変えずに)いえ、なんとなく。ただ、少し認識が違うかもしれません。ちいにゃんとは違って、AI女優というのは、役者さんが演じるものではなくて、コンピューターの中にだけ存在するデータのはずですよ。

(昌子はそう言うと、自分のデスクに向かおうとする。その言葉に、モン太郎は心の底から驚いたような顔で、大きな声を上げる)

モン太郎:えっ、そんな小さいんか!? エーアーって! パソコンの中に収まるくらいなんか!? さすがにハリウッドや、進んどる。

ナレーション:その場にいる全員が、モン太郎がAIを「着ぐるみ」か何かだと思っていたことを悟った。

(昌子は小さく肩をすくめ、葵は天を仰ぎ、おちばは「大きさの問題では……」と真剣に首をひねる。モン太郎だけが、壮大な勘違いに気づかず、一人で目を丸くしている)

(幕)

作・千早亭小倉


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[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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