箱庭コント「透ける人と被る人」

【登場人物】
南花 おちば
:劇団「かもかも」の女優であり、ゆるキャラ「ちいにゃん」の中の人。プロ意識が異常に高く、常に汗と情熱にまみれている。
へんてこさん:無意味の侵入者。本名は「へんてこりん」。行動に理由を持たず、なぜか体が透けて見えることがある。

【場面設定】
夏の東風公園。イベントの合間の休憩時間。セミの声が鳴り響いている。 ベンチに南花おちばが座り、「ちいにゃん」の頭部を膝に抱えて、タオルで顔の汗をゴシゴシと拭いている。

南花おちば:あー、暑い。この中、余裕で40℃超えてるよ。でも、プロが中に入ってるんだから、ちいにゃんは絶対に疲れた顔を見せちゃダメなの。この汗の分だけ、子供たちに笑顔が届くんだから。

(おちばが首筋に張り付いた髪をかき上げていると、目の前をへんてこさんが横歩きで通りかかる。おちばは、へんてこさんの腹のあたりを見て、動きを止める)

おちば:へっ!? ちょっと、あの。すみません。

へんてこさん:(立ち止まり、首を傾げる)そうなん?

おちば:そうなん、じゃなくて。あなたのお腹の向こう側に、公園の水道の蛇口が見えてるんですけど。完全に透けてますよね?

へんてこさん:(自分の腹を見て)からん?

おちば:からん、じゃないです。からです。どういう素材の服を着たら、そんなに向こう側が丸見えになるんですか? あたしなんて、この分厚い合成繊維の層に閉じ込められて、自分の吐いた息で溺れそうになってるんですよ! なのに、あんた、層がないどころか、存在自体がメッシュじゃないですか!

へんてこさん:(左右で色の違う靴下を指さし)へんてこりん。

おちば:靴下の色が違うとか、そういうごまかしはいいんです! ハッ。まさか。

(おちばがベンチから立ち上がり、ちいにゃんの頭を両手で強く握りしめる)

おちば:役作り……ですよね? 完全に「中の人」の自我を消し去るための、究極のメソッド。

へんてこさん:そうなん?(関心無さそうに、立ち去ろうとする)

おちば:行かないで! 聞いてください。あたしは、ちいにゃんという外側の層ばかり気にして、自分の内側にある「南花おちば」っていう熱や汗を消し切れていなかった。被っても自我、脱いでも自我。でも、あなたは違う。「外側の層」を一切使わずに、自分自身を透明にして、背景と同化している!

へんてこさん:(首から下げた、用途不明のプラスチック部品を指で弾く)ころん。

おちば:それが、感情のスイッチを切り離して、体を透けさせるためのトリガー! くっ、あたしの「絶望の肉球」メソッドが、なんて子供っぽく見えるんだ……!

(おちばが、胸の前で両手を猫の手のように丸めて、きゅっと強く握りしめる)

おちば:あたしはいつも、この肉球の中に悲しみを詰め込んで、必死に演技をしていました。でも、悲しみを握りしめているうちは、まだ「私」という重さがある。あなたみたいに、悲しみごと透けさせるくらい、空っぽにならなきゃダメなんだ! からん! ころん!

へんてこさん:へんてこりん。

(へんてこさん、空を見上げたまま、再びカニのように横歩きを始めて去っていく)

おちば:あっ、待ってください師匠! その透明になるコツ、もう少しだけ……!

(へんてこさんの姿が木立の向こうに消える。おちばは膝から崩れ落ち、芝生に手をつく)

おちば:行ってしまわれた。完璧な「無」の演技。凄すぎる。(ハッととする)せめて写真を撮っておけば、画像検索できたものを。(首をぶんぶん左右に振る)邪心! よし、あたしもまずは、このジャージを脱いで、風と同化するところから始めよう! 見ててください、スケスケ師匠! 究極の「エア肉球」、絶対マスターしてみせます!

(おちばが、猛烈な勢いでジャージの上着のジッパーを下ろす。汗の匂いが、夏の空気にむわっと広がり、飛んでいたとんぼが咽る)

(幕)

作・千早亭小倉

[コント台本・小説500本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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