コント「電波に乗ったホントだねー」

【登場人物】
真田 まる:「ものがたり屋」店主。普段は他者の痛みをすべて受け入れる「盾」。
おはぎはん:ライター。普段は理不尽を許さず正義感で突っ走る「槍」。
椎名 町助:作家。普段は絶望を「ワロス」と笑い飛ばし、絶対的な傍観者に徹する。
ダダダさん:60歳。FMここあんの新番組パーソナリティ。完全共感体。

【場面設定】
椎名町三丁目、「ものがたり屋」の1階カウンター。 古いラジオから、FMここあんの放送が流れている。

(ラジオの音声)
相談者の声:最近、職場の人間関係がうまくいかなくて。私が全部悪いんじゃないかって、夜も眠れなくて……。
ダダダさんの声:ホントだね〜。
相談者の声:えっ……? あ、あの、それで、どうすれば……。
ダダダさんの声:なんか面白いこと言って〜。
(無音の数秒間。そして次の曲が流れる)

おはぎはん:(手にしていたペンを置き、ラジオを食い入るように見つめる)……天才や。

真田まる:(ほうじ茶を淹れる手を止め)えっ、おはぎ、今なんて?

おはぎはん:このダダダっちゅうおっさん、メディアの予定調和を真っ向からぶっ壊しとる! 「悩み相談には解決策を提示せなあかん」っちゅう、凝り固まった概念への痛烈なアンチテーゼや! 相談者の深刻さを「ホントだねー」で無に帰し、逆に「面白いこと言え」と圧をかける。これぞ新しいジャーナリズムの形やわ! 痺れる!

まる:意外やわ。普段のあんたやったら、「公共の電波で適当な相槌打つな! 相談者が可哀想やろ!」って怒り狂うとこやんか。

おはぎはん:正義ってのは、時にこういう破壊から生まれるんや。せやけど、まるはええの? 自分の商売敵みたいな番組やんか。

まる:(ほうじ茶の急須を、ドンッと少し強めにカウンターに置く)せやねん。私、こういう番組、ほんまに許せへんわ。

おはぎはん:えっ、まるでも怒るん? それも意外やな。普段やったら「まあまあ、こういう適当なんが救いになる人もおるんよ」とか言うて、ふんわり受け止めるくせに。

まる:だってな、おはぎ。うちかて、お客さんのしんどい話聞くときは、ちゃんとお茶淹れて、隣に座って、なんなら相手の爪の先に詰まった泥を、こうな、こんな風にな(自分の指の先をしごいて、汚れを取る仕草)、それを電波越しに「ホントだねー」の一言で済まそうなんて、同業者として舐めとるわ。手抜きやん。

おはぎはん:商売敵としてのプライドやな! まるがそんな生々しい対抗心燃やすなんて、ほんまに意外やわ。

(二階の階段から、ドタドタと足音がして、椎名町助が降りてくる)

椎名町助:おい。今のラジオ、聞いてたか? ダダダさん、ダダダさんの。

まる:あ、助さん。そうやで。ダダダさん、FMここあんで新番組持たはったらしいわ。

町助:ワロス。……いや、ワロスじゃない。美しい。

おはぎはん:美しい?

町助:圧倒的な「無」だ。意味の消滅点。俺はずっと、自分から物語を発信せず、ただの「世界の背景」でありたいと思っていた。だが、彼は電波という媒体を使って、ここあん村の空間そのものを真空にしてしまった。俺の傍観者としてのスタンスを、はるかに凌駕している。

まる:助さん、なんか目がギラギラしてはるけど。

町助:まる、便箋とペンを取ってくれ。俺もハガキ職人になって、ダダダさんの真空に、俺の絶望を放り込んでみたい。彼が俺の「ワロス」をどう無効化するのか、試さずにはいられない。

おはぎはん:一番意外や! あんさん、普段「他人の靴に足入れるような真似はせん」とか言うて、ただの背景に徹してるくせに! 自ら物語を発信しようとするなんて!

まる:(呆れながら、カウンターの下から便箋とペンを出す)はいはい、ハガキやないけどええ? まさか、ダダダさんのおかげで、助さんが自分から筆を執るとは思わんかったわ。

町助:(一心不乱に便箋に向かいながら)『ラジオネーム・椎名町の背景。最近、同居人がほうじ茶ばかり淹れて、コーヒーを出してくれません。どうすればいいでしょうか』……よし、これでいく。

おはぎはん:絶望のスケールちっさ! ほんでそれ、目の前のまるに直接言えや!

(ラジオから再びダダダさんの声)

 ダダダさんの声:『ホントだね〜。じゃあ、次の曲いってみよ〜』

(おはぎはんがちょっとビクっとする。町助が便箋に向かうペンの音が、なぜか楽しげに響く)

まる:(町助の便箋の字を目で追いながら、スッと町助の隣に座る)

町助:まる、どうした?

まる:(町助の手をそっと握り、人差し指と中指の指先をじっと見つめる)助さん。しんどかったな。コーヒー、飲みたかったんやな。

町助:いや、そこまで深刻な話では……。

まる:(町助の爪の先を自分の指で優しくしごきながら)電波越しに「ホントだねー」なんて絶対に言わせへん。私はここにいるよ。さあ、爪の泥、全部取ったるからな。

町助:怖い! まる、目が据わってて怖い! 泥なんて詰まってない!

おはぎはん:まる! 対抗意識が変な方向へバーストしとる! 過剰包装や! ケアの過剰包装!

ダダダさんの声:(ラジオから)ホントだね〜。

町助:なんか、完璧な間合い。

おはぎはん:うちら、聞かれとるんか?

(幕)

作・千早亭小倉

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