箱庭コント248「静寂を巡るディソナンス」

【登場人物】
黒崎 文:ここあん高校文芸部部長。「本質」や「魂」といった言葉を多用する、熱量の高い(Hot)最強。
矢尾リリカ:文の隣のクラスの最強ヒロイン。熱量を「ガキっぽい」と断じ、全てをクールに分析する(Cool)最強。
図書委員:図書室の秩序を守る生徒。

【場面設定】
ここあん高校。放課後の図書室。静寂が支配している。

(窓際の席で、黒崎文が分厚いハードカバーの本を真剣な表情で読みふけっている。その向かいの席に、リリカが音もなく座る)

黒崎文:(本から目を上げ、リリカを睨む)

矢尾リリカ:(文に軽く会釈し、カバンから数学の問題集を取り出す。続けて、耳にワイヤレスイヤホンを装着しようとする)

:(声を潜め、だが鋭く)待て、リリカ。

リリカ:(イヤホンを持つ手を止め、首を傾げる)なにかしら、黒崎さん。

:ここは図書室だ。

リリカ:知っているわ。だから静かにしているじゃない。

:耳に入れようとしている「それ」は、なんだ。

リリカ:見ての通りイヤホンよ。

:ここは言葉と魂が対話する聖域だ。そのような騒音を持ち込む場所ではない。

リリカ:(イヤホンを机に置き、呆れたように微笑む)音は外に漏らさないわよ。世界に対しては完璧に無音。私の中で鳴るだけよ。

:リリカの内側が騒音に満ちていては、ここにある静寂の意味が損なわれる。

リリカ:静寂に意味なんてあるの? ただの「音が無い状態」でしょ。私は音が無いと逆に集中できないの。計算問題のBGMよ。

:(眉をひそめ)BGMだと? リリカはこの沈黙が持つ豊穣な意味を理解していない。この静けさの中でこそ言葉は研ぎ澄まされ、思考は深淵に達する。

リリカ:うーん。(窓の外に視線を向けて)私は、この静けさって退屈だと思うけど。まるで誰も見ていない舞台稽古みたい。緊張感だけあって、中身がないわ。

:(本を強く握りしめ)子供だな。中身がないのではない。リリカ自身に、その静けさの深みを受け止める器がないだけだ。

リリカ:そうかしら。(淡々とイヤホンを指先で弄び)でも、黒崎さんこそ、その分厚い本で何を読んでいるの?

:何、とはどういうことだ。

リリカ:その本、さっきから10分以上同じページが開いたままよ。

:(息を呑み、顔を赤らめる)

リリカ:最初から私を監視していたんでしょ。この「聖域」とやらを荒らされないように。それって読書じゃなくて、ただの警備じゃないかしら。

:(屈辱に口を結び、本を音を立てて閉じる)

リリカ:熱くならないで。私はただ、次の小テストの範囲を終わらせに来ただけ。合理的でしょ?

:リリカの言う合理性は、無駄を削ぎ落としているつもりで、人が味わうべき大切な情緒や本質まで切り捨てているだけだ。

リリカ:無駄を省いて何が悪いの? 現にこうして、誰にも迷惑をかけずに勉強できるんだから。黒崎さんの言う情緒に付き合って赤点を取るほうが、よっぽど無意味よ。(片方のイヤホンを外し、文に差し向けて)一緒に聞く? あなたの言うステキな「器」なら、これくらい良いアクセントになるでしょ。

:(勢いよく立ち上がる)もういい。私の魂が、これ以上の不毛な対話には耐えられないと叫んでいる。

リリカ:あら、残念。お疲れ様。

(文が怒りに肩を震わせ、本を小脇に抱えて足早に出口へ向かう。その時、静まり返った図書室に、文の革靴の鋭い足音がコツコツと大きく響く)

図書委員:(カウンターから冷ややかに)あの、黒崎さん?

:(ピタリと足を止める)なにかしら。

図書委員:お静かにお願いします。ここは聖域ですから。

:(息を詰まらせ、顔を真っ赤にして固まる。言い返す言葉も見つからず、深くうつむいて抜き足差し足で情けなく図書室を出ていく)

リリカ:(その背中を冷静に見送り、小さく息を吐く。両耳にイヤホンを装着し、問題集にペンを走らせる)やっと静かになったわ。これで集中できる。

(幕)

作・千早亭小倉


矢尾リリカ|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:矢尾リリカ(やおりりか)年齢・性別:18歳・女性肩書:ここあん高校B組ここあん高校B組に所属する、「冷たい(Cool)最強」と称される少女です。ここあん村の新興高級住宅地「きさらぎタウン」に暮らし、自分を「ステキさん」と呼ぶ自己愛の強…
黒崎 文|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:黒崎 文(くろさき ふみ)年齢・性別:10代後半(高校生)・女性肩書:ここあん高校(私立鳥瞰学園)文芸部部長ここあん高校の絶対的支配者/矢尾リリカのライバル(?)部室の窓際で、琥珀色の麦茶をウイスキーのようにグラスで嗜む孤高の美少女。…
ここあん高校|箱庭ここあん村の中心スポット
ここあん村らしく、村唯一の高校「ここあん高校」でも、文芸に特化した教育が行われています。「あのこと」以降、校舎が巨大塔「ペンタ」の下層階に移転したことに伴い、「ここあん大学芸術学部 附属高度創造研究校」に位置づけられました。教師・講師講義録…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

箱庭コント
higashiboctokをフォローする
タイトルとURLをコピーしました