箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭スケッチ「止まった時間のビスケット」

【登場人物】氷上 静:ここあん湖畔のブックカフェ「シズカ」オーナー。中野 小春:カフェ共同オーナー。【場面設定】昼過ぎ。ブックカフェ「シズカ」。客はいない。氷上静:開かない。(静、小さなマイナスドライバーをカウンターに置く)中野小春:どれど...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「鶴亀昌子は矛盾している」|地層3

深夜の編集プロダクション「ぽんちょ」は、締め切り間際の独特な熱気に満ちていた。聞こえるのは、パソコンのファンが発する微かな唸りと、誰かのキーボードを叩く乾いた音だけ。その静かな喧騒の中心で、鶴亀昌子——通称かめちゃんは、ゲラの赤字と孤独な戦...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「鈴が鳴る」|地層3

気象庁が今年も「梅雨入りしたとみられる」と、その一言に科学の誠実さを詰め込んで発表した日の午後。ここあん鉄道「大学前」駅のホームには、肌に粘つく生ぬるい空気が澱んでいた。鉄美鈴くろがねみすずは、駅務室の窓から灰色の雲が低く垂れ込める空を見上...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「ラブちゃんの筑前煮」|地層3

午後の遅い日差しが、居酒屋「ここきた」の磨かれた窓ガラスを通り抜けて、店内をさざ波のように輝かせていた。まだ客の来る時間ではない。活田地区の学生街の喧騒も、この路地裏までは届かず、しん、と静まり返った店内は、夜の賑わいが嘘のようだ。渡良瀬愛...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「たたこは夢の中」|地層3

うたた寝は、浅い海の底を漂う感覚に似ている。音のない世界。重力から解き放たれた手足。意識と無意識の境目で、クラゲのように、ただゆらゆらと。たたこはベッドの上で猫のように丸まっていた。窓から差し込む初夏の光が、彼女の黒髪を淡く縁取り、マリンス...