箱庭コント「20枚の攻防戦」

【登場人物】
ぺらいちまい
:映像制作の脚本担当。気取った台詞を書くが実務能力ゼロの男。愛称はえんぴつ。
とりみんこ:映像制作の編集担当。男たちの重い自意識を冷酷に切り捨てる。愛称はハサミ。

【場面設定】
シェアハウスの雑然とした共用リビング。テーブルを挟んで、二人が向かい合って座っている。

えんぴつ:また巡ってきてしまったか。僕という存在が、この空間に留まるための無情な年貢の納め時が。

ハサミ:年貢の納め時って……使い方が微妙に合っていないような。いや、合ってるのか。あの、あなただけじゃなくて、みんなから家賃を集める日ってだけだからね。

えんぴつ:冷酷な現実を受け止める自分の姿勢をまずは褒めてあげたい。

(ハサミは聞き流している。えんぴつは、机の上に大量の10円玉が入った空き瓶を置く。金属音が重たく響く)

ハサミ:何なの、それ。大人の貯金箱?

えんぴつ:僕の今月が、ここにこうして堆積しているんだよ。ミンコには、数えるのを楽しんでほしい。

ハサミ:ミンコって呼ぶな。呼ぶならトリミンコってフルで呼べ。……っていうか、もしかして、全部10円玉?

えんぴつ:そう。国が認めた、立派な価値の結晶。赤と茶色のイリュージョン。

ハサミ:価値は認めるけど、これ、何枚あるの。

えんぴつ:ちょうど700枚ある。僕の今月分、7000円だ。

ハサミ:700枚。受け取らないよ、これ。

えんぴつ:なぜ拒否するんだ。価値は認めると言ったじゃないか。僕が深夜、ファミレスでポテトの誘惑を乗り越え、1枚ずつ1枚ずつ、財布の底から救い出してきた10円玉たちだぞ。

ハサミ:救い出すの意味も微妙に合っていな……ああ、いいや、めんどくさい。法律で決まってるの。同じ種類の硬貨での支払いは、1回につき20枚までって。

えんぴつ:法律? 手に匂いがつくからとかではなく、法律?

ハサミ:そう。あの匂いは、10円玉に手が触れたとき、皮膚の油分が銅の働きで分解されるんだよね。そのときできる物質が空気に蒸発し、いわゆる金属臭を感じさせるんだよ……じゃなくて。

えんぴつ:法律。

ハサミ:そう。法律。「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」、略して「通貨法」。それの第7条。同じ種類の硬貨は、1回につき20枚までしか強制通用力がないって決められてるの。

えんぴつ:きょうせいつうようりょく。

ハサミ:変なフシを付けない! あなたが21枚以上の10円玉を出してきた時点で、私はそれを受け取る義務がないの。わかる? 受け取りを断る権利があるのよ。はい、その瓶には退場いただいて。

(えんぴつ、机の上のペン立てにささった鉛筆の先を指でなぞる)

えんぴつ:やれやれ。法律というのは、人間が作った不完全な枠組みにすぎない。僕の700枚の10円玉を、ただの枚数という数字のフィルターで見えないことにするなんて、人の血が通っていない。

ハサミ:血の問題じゃないよ。私が許しても、銀行は許さないよ。銀行の窓口に持っていくのは私なんだから。

えんぴつ:それなら、ミンコが両替してくれればいいじゃないか。

ハサミ:だから、ミンコって呼ばないで。なんで、私があなたの貯金箱を受け取らなきゃいけないのよ

えんぴつ:でも、これしか、ないんだ。

ハサミ:ルールはルールだから。20枚までは受け取ってあげる。ほら、そこから20枚だけ数えて出して。

えんぴつ:20枚。200円だね。残りの6800円はどうするんだ。

ハサミ:別の硬貨で払って。お札でももちろんOK。

えんぴつ:別の、硬貨。

(えんぴつ、ポケットをがさごそと探る。別の硬貨が次々に出てくる)

えんぴつ:ええと、50円玉が20枚と、100円玉が20枚ある。

ハサミ:あんたのポケットどうなってるの? 50円玉が20枚で1000円。100円玉が20枚で2000円。うん、それは受け取る。というか、そっちを先に出しなよ。

えんぴつ:この銀系硬貨には、別の役割があるんだ。

ハサミ:銀系って言ったって、白銅でしょう? 10円玉は青銅で。同じ銅じゃない。

えんぴつ:え、そうなの? 大学の専攻なんだったの? やけに詳しい。

ハサミ:どうでもいいでしょう?

えんぴつ:あ、ごめん。つまり、同じ種類の硬貨が21枚以上でなければ、複数の種類を組み合わせても、それぞれが20枚以下ならいいということか。

ハサミ:その通り。10円玉20枚、50円玉20枚、100円玉20枚。これなら、合計枚数が60枚になっても、法律上の受け取り義務が発生する。

えんぴつ:なんて美しい、ルールの抜け穴なんだ。ちくわや公園のどかんみたいな手触りがある決まり。

ハサミ:抜け穴じゃないよ。ただの正しい法律の適用。で、それでもまだ3800円足りないんだけど。

えんぴつ:やれやれ。僕の財布の底の宇宙が、今、完全に枯渇した。残りは僕の、この意識高い系の銀色ズボンを質に入れて補填するよ。

ハサミ:それも銀じゃないでしょう? 生地の表面にアルミニウムの粉末を混ぜた特殊なインクを箔プリントしたり、樹脂をコーティングしたりして金属の光沢を出しいるのよ。

えんぴつ:ミンコ、専攻……。

ハサミ:うるさい。他にもまだ持ってるでしょう? ニッケル黄銅の丸いの早く出しなさいよ。

えんぴつ:僕の500円玉貯金だけはご勘弁を。

(幕)

作・千早亭小倉

[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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