移動図書館

箱庭小説(掌編・スケッチ)

移動図書館日記(117)

これは、日記という名を借りた私の記憶。ロマコメ号のオーニングの下、心地よい風が通り抜けていく。カウンターの前に立つ80代くらいのおかあさんが、何十年も仲間と続けてきたという小さな人形劇団の名前を教えてくれた。「ンギヤボンガ」「ン? え、『ん...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

移動図書館日記(116)

これは、日記という名を借りた私の記憶。某月某日。ロマコメ号のオーニングの下を、乾いた柔らかな風が通り抜けていく。カウンターの前に立った七十代くらいの女性が、少しだけ心許ない手つきで、三冊の本を差し出した。「たぶん、ここで借りたのよね。家族が...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

移動図書館日記(115)

これは、日記という名を借りた私の記憶。遠野から戻り、数日ぶりに本館の通用口を開けた。紙と埃、それにほんの少しの湿気が混ざったいつもの匂いが、静かに鼻をくすぐる。たった数日不在にしただけなのに、随分と長い間ここを離れていたような気がする。ああ...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

移動図書館日記(114)遠野編

これは、日記の名を借りた、中野文の記憶。息を、口から細く長く吐き出す。吐いた分だけの空気が、鼻の奥をすっと抜けていく。今日の朝の空気は、春の匂いを含んであたたかくさえ感じた。ただ、ここあん村からやってきた千夏さんにとっては、まだ肌を刺すよう...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

移動図書館日記(113)遠野編

これは、日記の名を借りた、中野文の記憶。昨夜、千夏さんと静かに語り合った言葉の余韻が、どうやら私の心の奥にある「引き出し」の鍵を、不用意に開けてしまったらしい。遠野の冷たい朝の空気の中で、私はふっと目を覚ました。夢の中の私は、冷たい雨に打た...