箱庭コント「美鈴の3乗」(台本)

【登場人物】
鈴木 美桜:ここあん村立図書館の司書。ガラクタを捨てられない大雑把な妹キャラ。
鈴本 美沙:FMここあんのDJ。愛称「ミサンガ」。空気を読まない天然のクラッシャー。
鉄 美鈴:ここあん鉄道の駅員。秩序とダイヤを重んじ、無秩序に直面するとパニックを起こす。
タッピツ:ここあん高校の文芸部員。「手書き天女」。言葉の意味より「文字の視覚的な美しさ」を最優先する。

【場面設定】
ここあん村立図書館、1階の村民交流ラウンジ。テーブルを囲んで、美桜、美沙、美鈴の三人が座っている。それぞれの前には、業務用の四角いアクリル製名札が置かれている。

鈴本美沙:(テーブルの名札を見比べて)ねえ、前から思ってたんだけどさ、私たちの名前って文字の要素が被りすぎじゃない? 私が「鈴本美沙」で、あなたが「鈴木美桜」ちゃん。

鈴木美桜:そうですね。鈴と美が交互に出てきて、頭の中がごちゃ混ぜになる人、いるかもですね。私の部屋にある、分別を諦めた領収書の山と同じくらい分類が難しいです。

鉄美鈴:類似した名称の並列は、確認時のヒューマンエラーを誘発します。私は「鉄美鈴」です。点呼の際はフルネームで明確に発音し、指差し確認を徹底すべきです。「くろがねみすず」、呼称確認、ヨシ。

(そこへ、ここあん高校の制服を着たタッピツが通りかかる。3人の胸につけたり、首から下げたりしたネームプレートに目を留め、激しく足を止める)

タッピツ:ちょっと、そのまま動かないで。

美沙:え、何。高校生の子。いまの話、聞いてた?

タッピツ:聞いていません。(名札に顔を近づけ、身を乗り出す)しかし、これは、気になる。いえ、気になるなんてレベルじゃない。鈴木美桜、鈴本美沙、鉄美鈴。なんてこと。金偏がもたらす硬質な重み。そこに、三連続で押し寄せる、四重の塔とも言える「美」の絶対的な安定感。さらに鈴木の「木」と鈴本の「本」の五角目のあるなしが、視覚的なリズムを正確に刻んでいるわ。三四五、三四五、嗚呼。

美鈴:リズム。ダイヤグラムの話ですか。

タッピツ:たまらない。この文字のシルエットが作り出す奇跡のバランス。見ているだけで、手首の奥が熱くなって震えてくる。特に「鉄」の字が持つ無骨なイメージが、三つの「美」を引き締める最高のアクセントになっているわ。

美鈴:手首の奥が震える? 大丈夫ですか? 駅務室から救急箱を手配しましょう。

美桜:それより、お水、飲みます? 図書館開館時に記念に作った高級紙コップのコレクションを、どうぞお使いになって。

タッピツ:違う、違うの。あなたたちの名前の文字の並びが放つ圧倒的な視覚情報に、私の美意識が激しく反応しているの。ただ、この名札、なんてこと。いや、仕方ない。パソコンの印字ですね。明朝体に罪はないけれど、この明朝体はいけない。芸術性を殺す冷たさ。私が今すぐ、毛筆で最適解のカリグラフィを施してあげるので、みなさんそれを外してください。

美鈴:業務用の名札を私物化することは服務規程違反です。断じて許可できません。

タッピツ:頑固ね。でも、ダメ。文字の美しさが強すぎて、記号としての意味がまったく頭に入ってこなくなってきたわ。ゲシュタルト崩壊を起こしかけている。

美沙:げしゅたると。何ですか、それ、ドイツのバンドの名前でしょうか?

タッピツ:全体としてのまとまりが消えて、ただの線の集まりに見えてくる現象です。ほら、あなたたちもこの名札の「鈴」と「美」をじっと見つめ続けなさい。ほら、早く。

美鈴:安全確認の一環として、注視します。

(美沙、美桜、美鈴の三人が、真剣な表情で自分の名札をじっと見つめる。沈黙が流れる)

美沙:あ、なんか、じっと見てたら「鈴」って漢字、変じゃない? 上の部分はこれ、何? 三角屋根? 三角屋根の連なりの下に何が詰まってるの、これ。

タッピツ:そう、それがゲシュタルト崩壊の始まりです。

美桜:「美」という文字も、じっと見ていると、「羊」が「大」きくなっているだけに思えてきました。なぜ私は名前に大きな羊を背負っているのでしょうか。だんだんこれが、ただの毛糸の塊に見えてきました。

美鈴:お、落ち着いて、美沙さん、美桜さん。文字は記号であり、意味を定義するものです。私は、鉄、美、鈴。鉄は、金に、失う。金を失う。私は職務において何か大切なものを失う予定があるということですか。そんな不吉なダイヤは承認できません。

美沙:待って、私、自分の名前が思い出せなくなってきた。私は、ミサンガ。手首に巻かれる紐なのに、三角屋根の羊小屋の羊飼い? ペーター。

タッピツ:素晴らしいわ。意味から解放されて、文字が純粋なデザインとして躍動し始めた。ほら、もっと崩壊しなさい。

美鈴:いけません。自己の呼称が曖昧になることは、運行管理上の重大なインシデントです。私は、私は誰ですか。名札の文字が、ただの複雑な幾何学模様にしか見えません。線が、線がバラバラに散らばっていく。ダイヤグラムのように。安全確認、不能。

美桜:私の「木」も、これは六叉路? 信号機を付けられるのでしょうか? 整理整頓ができない私の名前そのものが、交通整理が必要だったんですね。

美沙:やめ、やめ、スト―――――ップ。もう、わけわかんないから、うちら三人まとめて新しい名前をつけよう。そうだ、「美鈴トリオ」ってことでいいじゃん。

美桜:とりあえずまとめるって、なんて素敵なんでしょう。助かります。

美鈴:トリオという車庫に入るのですね。点検終了まで、終日運転見合わせです。

タッピツ:「美鈴トリオ」ですか。私は、「ラジオ」「図書館」「電車」とでも区別することにします。

美沙・美桜・美鈴:雑!

(幕)

作・千早亭小倉

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
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