箱庭コント244「もやもや文学解体ショー」

【登場人物】
黒崎 文:ここあん高校文芸部部長。文学至上主義者で罵倒系 。言葉へのこだわりが異常に強い。
神崎 一樹:同文芸部員。人間の行動をデータとして分析する癖がある。
天野 光:一樹のクラスメイト。快活な全肯定ガール。
氷上 静:ここあん湖畔のブックカフェ「シズカ」のオーナー。冷静な批評を持つ。

【場面設定】
ブックカフェ「シズカ」。店内には静かなジャズが流れている。神崎一樹と天野光がテーブルで参考書を広げている。

(店のドアが開き、黒崎文が不機嫌な顔で入ってくる。そのまま一樹たちのテーブルにドサリと鞄を置く)

黒崎 文:最悪だ。あの脚本家は、日曜朝のトーストに塗られたマーガリンの匂いを知らない。

天野 光:(顔を上げ)あ、黒崎さん! マーガリン? 美味しそう! 私バターより好きかも。

神崎 一樹:(ペンを止め、分析するように)なるほど。日曜朝のトーストに塗られたマーガリン。それは「安易で画一的な幸福」のメタファーか。つまり、その脚本家は、ありふれた日常のディテールを描く筆力がない、と?

:(一樹を睨み)違う。単純に、昨日のドラマの主演俳優の顔が、冷蔵庫から出したてのマーガリンみたいに、ぼんやりと生温かっただけだ。

一樹:(小さく)生温い……? マーガリンは通常、冷たいものだが……。

:あ、わかる! トーストに乗せるとすぐ溶けるよね、ヤツ(マーガリン)は!

:(光を無視し)だいたい、あのクライマックスが許せない。「僕は、行かなくちゃならないんだ」? 噴飯ものだ。なぜあそこで「俺の右足が、アスファルトに落ちた蝉時雨のシミに飽きたと言っている」と書けない?

: え? 足がしゃべるの? すごい! ファンタジーだ! 腰も笑うしね。

一樹:膝ね、それ。(再び分析)「蝉時雨のシミ」は「過ぎ去った焦燥感の残滓」。「アスファルト」は「動けない現実」。つまり「過去のトラウマを抱えた現実からの脱却」という内面の吐露か。見事な表現だ。

:(忌々しげに)お前は、いつもそうだ、一樹。言葉をピンセットでつまんで、バラバラにする。それは解体だ。お前の分析は、日曜のデパートでやってる冷凍マグロの解体ショーだ。

一樹:(ムッとして)マグロ? なぜそこで唐突に魚類が……? 部長の比喩は論理が飛躍しすぎている。

:あ、私、昨日マグロ丼食べたよ!

:あの脚本家はマグロですらない。イワシだ。

一樹: イワシ……? 青魚はDHAが豊富であるし、褒め言葉か?

(そこまで言うと、カウンターの奥から、冷ややかな声が飛んでくる)

氷上 静:……お客様方。当店、マグロ丼もイワシの塩焼きも扱っておりません。ですが、本日のキッシュは「ノルマンディ風」です。

:(静をカッと睨み)ノルマンディ……? いい響きだ。あのドラマの主人公は、決戦前夜のノルマンディの砂粒にすらなれない。

一樹:(小声で)砂粒は、なろうとしてなるものじゃない。ただ、そこにあるだけだ。存在論的な問題で。

:(目を輝かせ)ねえ、ノルマンディ風キッシュって、どんな味? バターとマーガリン、どっち使ってるのかな?

(文はこめかみを押さえ、一樹はノートに「砂粒=存在論」と書き込む。静は、注文されていないので、黙ってカウンターを拭いている)

作・千早亭小倉


神崎一樹|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名: 神崎 一樹(かんざき いつき)年齢・性別: 十代後半・男性肩書: ここあん高校(私立鳥瞰学園)文芸部員常に一歩引いた視点から世界を眺め、人間を数値や記号、行動原理に分解して「再構築」しようとする特異な分析癖を持っています。その論理的…
天野 光|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:天野 光 (あまの ひかり)年齢・性別:高校生・女性肩書:ここあん高校 3年C組/女子バスケ部員新興住宅街「きさらぎタウン」に住み、巨大塔ペンタの下層階へと通う快活なヒロインです。バスケで鍛えたしなやかな筋肉と日焼けした肌を持ち、周囲…
黒崎 文|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:黒崎 文(くろさき ふみ)年齢・性別:10代後半(高校生)・女性肩書:ここあん高校(私立鳥瞰学園)文芸部部長ここあん高校の絶対的支配者/矢尾リリカのライバル(?)部室の窓際で、琥珀色の麦茶をウイスキーのようにグラスで嗜む孤高の美少女。…
氷上静|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:氷上静(ひかみ しずか)年齢・性別:35歳・女性肩書:ブックカフェ『シズカ』店主/私立ここあん大学哲学科講師(休職中)家族・パートナー:母・氷上冬子、パートナー・中野小春湖畔に佇むブックカフェ『シズカ』を営む女性。「氷山女」と称される…
湖畔のブックカフェ「シズカ」|箱庭ここあん村の中心スポット
ここあん湖畔に佇むブックカフェ「シズカ」は、訪れる人々が内面と対話し、心を「繕う」ための穏やかな場所です。店舗には、オーナーである現代思想家の氷上静が独自の視点で選んだ哲学書や文学書が並びます。その傍らで、共同オーナーの中野小春が丁寧に焙煎…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

箱庭コント
higashiboctokをフォローする
タイトルとURLをコピーしました