箱庭コント241「どこまでもプリン」

【登場人物】
徒然士: 劇団「かもかも」の座付き作家。完璧な様式美を信奉する、気難し屋の文芸評論家。
おはぎはん: 面白そうなことには即行動の、猪突猛進型ジャーナリスト魂を持つライター。

【場面設定】
ここあん村の公民館の一室。劇団「かもかも」の稽古場。長机に向かい、徒然士が万年筆を片手に腕を組んでいる。その向かいに、おはぎはんがメモ帳を広げて座っている。

(おはぎはんが、期待に満ちた目で徒然士を見る)

おはぎはん:ほんで先生、次のFMここあんのラジオコントのテーマ、「どうでもいいケンカ」でお願いしたいんです! リスナーが「あるある!」って笑えるような、くだらなくて愛おしいやつ、お願いしますわ!

徒然士:ふむ。「どうでもいいケンカ」かね。実に深遠なテーマだ。一見、無価値に見える日常の摩擦にこそ、人間の本質、すなわち関係性の様式美が隠されている。いいだろう、この徒然士、腕が鳴るというものだ。

おはぎはん: さすが先生! 頼りになりますわ! どんなケンカがええでしょうね? 靴下の脱ぎっぱなしとか、シャンプーの詰め替えとか……。

徒然士:(おはぎはんの言葉を遮り、目を閉じて天を仰ぎ)見える。見えるぞ、おはぎくん。完璧な構図が。舞台は、とある夫婦の暮らすマンションの一室。夜。冷蔵庫の、冷たく青白い光だけがキッチンを照らしている……。

おはぎはん:(目を輝かせ)おぉ、ええ雰囲気ですやん!

徒然士:夫が仕事から帰宅する。彼が楽しみにしていたのは、妻が買っておいてくれた、一個100円のなめらかプリンだ。しかし、冷蔵庫を開けると…ない! プリンが、ないのだ!

おはぎはん:…………は?

徒然士:ん、1個108円、いや127円にするか。レシートは買い物カゴに宿るとも言うからな。そこで、夫は妻を問い詰める。「僕のプリンを食べたのかい?」。妻は答える。「あら、あなた、ダイエット中じゃなかったかしら?」。ここから、二人の間に存在するコミュニケーションの断絶、愛の不在という名の深淵が、一個のプリンを触媒として、鮮やかに炙り出されていくのだ! どうだね、この構造的な美しさは!

おはぎはん:(呆れた様子を隠しもせず、大きなため息をつき)先生。またプリンですのん?

徒然士: なにぃ? 「また」とはなんだね、「また」とは! 最初の感想がそれかね。今回のプリンは、前回の「スコーンの形而上学」におけるクリームとジャムの闘争とは全く次元が違う! あれは「存在」を巡る問いだったが、これは「不在」を巡る悲劇なのだ!

おはぎはん:いや、どっちも食べ物の恨みやないですか。この前、劇団かもかもの新人女優募集のコント書いた時も、結局、オーディションの課題が「プリンを巡る即興劇」でしたやんか。

徒然士:あれは役者の多角的な感情表現を引き出すための、計算され尽くしたメソッドだ! 君のような素人にはわかるまい!

おはぎはん:ほな、別の案、お願いしますわ。プリンやないやつ。

徒然士: よかろう。ならば、こうだ! 舞台は22世紀、宇宙ステーションの内部。二人の宇宙飛行士が、最後の食料である「宇宙プリン」を前に、互いの倫理観をぶつけ合う! これはもう、SFヒューマンコントの領域!

おはぎはん: プリン!

徒然士:ならば、時は戦国時代! 敵の城に忍び込んだ二人の忍び。殿様への献上品である、南蛮渡来の菓子「ぷりん」を前に、任務と食欲の狭間で葛藤する!

おはぎはん:だからプリン!! なんで、ケンカの核がぜんぶプリンなんです!?

徒然士:(心底呆れたように、おはぎはんを見つめ)君は、何も分かっていないのだな。いいかね、プリンという存在は、その完璧な円環、決して自らは崩れることのない甘美なまでの自己完結性、そして頂点に君臨するカラメルのほろ苦さ! まさに人生の、そして世界の縮図そのものではないか!

おはぎはん:(頭を抱え)あかん、もうプリンの話しか聞こえてきぃへん……。

徒然士:プリンを制する者は、コントを制するのだ! 日本のコントの47%はプリンネタだとも言われている!

おはぎはん:(何かを諦めたように、顔を上げ)分かりました。もう、ええです。プリンでいきましょ。

徒然士:(勝ち誇ったように)ふん、ようやく理解したかね。

おはぎはん: ええ。ほな、タイトルは『またプリンかよ』で、よろしゅうお願いします。

徒然士: (椅子から転げ落ちそうになりながら)なっ……! そ、それは様式美の完全なる放棄だ! 断じて認めん! 野暮! 野暮の極みだぁーっ!

(絶叫する徒然士を、おはぎはんは静かな目で見つめ、メモ帳に「タイトル:またプリンかよ(仮)」と書き加える)

作・千早亭小倉


徒 然士|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:徒 然士(ただ ぜんじ)年齢・性別: 51歳・男性肩書: 小説家、文芸評論家、私立ここあん大学日本文学科講師・・・はっ、さて。諸君、静粛にしたまえ。これから、このわぁたくしが、わぁたくし自身のことを、わぁたくしのために語ってやろうとい…
おはぎはん|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:おはぎはん(本名は「宏原こはぎ」)年齢・性別: 22歳・女性肩書: ライター(現場主義のジャーナリスト)、劇団「かもかも」女優「こんなん、面白くないやん!」 と、相手の懐に土足で踏み込む直線的な関西弁が特徴の若手ライター。赤毛のベリー…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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