コントの都合で登場人物を都合よく集めるということを、あまりやっていないのですが、今回は、ちょっと集まってもらいました。
【登場人物】
氷上 静:批評家でブックカフェ「シズカ」のオーナー。論理的な講釈が好きで話が長くなりやすい。
カゲロウ:編集プロダクション「スチール」の編集者。人のセリフをドラマチックなあらすじに変換する。
三成 ミツヒデ:ここあん大学講師。身も蓋もないデータと事実で物事を解剖する。
ギセイ(ケイヨウ):ここあん高校元文芸部生徒。「オノマとペ」メンバー。本来は長大な修辞を好むが、最近は一言の擬音に圧縮する役割を担わされている。
イチギョウ:ここあん高校元文芸部生徒。20字以内の短い警句で会話を射抜く名言スナイパー。
ダダダさん:ここあん村の不思議なおじさん。「ほんとだねー」の全肯定ですべての意味を消滅させる。
【場面設定】
昼下がり。ここあん湖畔のブックカフェ「シズカ」。氷上静がカウンター越しに、湯気の消えた珈琲カップを前にして、「時間と存在の不可逆性」に関する講釈を30分以上にわたって熱弁し終えたところ。客席には聞き手たちが集まっている。

カゲロウ:静さん、素晴らしい講釈でした。「お互いの理解のすれ違いを描いた、とても切ない物語」として手帳にあらすじを書き留めましたよ。
(手帳をそっと閉じる)
三成ミツヒデ:失礼ですがカゲロウさん、要約が甘いです。客観的な数値で見れば、要するに「冷めた珈琲を温め直すかどうか」の話ですよ。
氷上静:私の講義が果たして、そのような単純な数値に還元できるものなのかどうか。
カゲロウ:確かに、「冷めた液体を挟んで繰り広げられる、知的な拒絶とすれ違いのドラマ」とも言えそうですね。
ギセイ:くっ、擬声一言で済ませるはずが、静さんの言葉の美しさに胸が熱くなっていく。形容の血が騒ぐ。
ミツヒデ:ケイヨウ……、失礼、いまはギセイ君だったね。君の今の役割は言葉の圧縮でしょう。
ギセイ:黙れ! もうギセイの殻なんて被っていられない! 「立ち上る白煙の余韻に揺れる、静寂という名の冷たき琥珀の滴」! ケイヨウ、ここに復活。(ギセイがはぁはぁ言いながら、大きく手を広げて叫ぶ)
イチギョウ:長い! 20字以上の言葉に意味はない。「冷めたお茶も、飲めば温かい」。
カゲロウ:おお、名言によって見事に一撃で凝縮されました。
ミツヒデ:要するに、「冷めたから温め直す」。9文字、句点を入れても10文字に集約されました。
ダダダさん:ほんとだねー。(穏やかに頷く)
静:……。 (深く息を吸い、静かに口元を緩める)
カゲロウ:見事です。静さんが30分間しゃべり倒した講釈が、ミツヒデさんの10文字に綺麗に収められました。
ミツヒデ:これが事の実態です。余計な飾りはすべて消え去りました。
イチギョウ:言葉は短く刺せばいい。
ダダダさん:ほんとだねー。
静:……。 (歓喜に満ちた表情で手を叩く)
ギセイ:静さん、あきれていらっしゃるんですか。ですね?
静:逆よ。素晴らしい! 私の思考が、あなたたちの手で極限まで削ぎ落とされた!
ミツヒデ:お褒めに預かり光栄です。では、無事に解決したところで解散ですね。
(静の講義を聞いていた参加者たちに、ほっとした空気が流れる)
静:ええと、(よく通る声で)いま起こった「短縮という現象」こそが、私が本日提示したかった第一命題の完璧な実証、ということには気づいている? どうも、いなそうだけれど。
カゲロウ:はい? (首を傾げる)
静:さて、ここからが本題です。いまあなたがたが削り落とした無数の余白について、あと2時間ほど深く語り合いましょう。
(静が引き出しから分厚いノートを取り出す)
イチギョウ:延長戦!
ケイヨウ:巨大な本題の扉が開いてしまった!
ミツヒデ:要するに、情報量が、一瞬で爆発的に増量したと!
ダダダさん:ほんとだねー。
(幕)
作・千早亭小倉








